ポエトリースラムジャパン2019 ~誰の目で見ても、誰の耳で聞いても~
あなたは RHYMESTER というアーティストを知っていますか?
彼らは自身を”キングオブステージ”と称し、活動30年を迎えたベテランのHIPHOPグループですが、注目すべきは自称しているだけではなく現場で見た人はそれを皆が認める点です。
では何故、キングオブステージと認められているのか?
もちろん、メンバー全員のステージングが上手いのは当然ですがそこにはもっと根本的な理由があるはず。何故ならそのステージを見に来るのは様々な人がいるからです。
HIPHOPを知り尽くして新しい音源やパフォーマンスに飢えた玄人から、他のアーティスト目的で見に来た今までラップの”ラ”の字も知らなかった素人まで。
その両方を満足させるのは相当困難です。
前者を頷かせるには今までと同じことをしていても飽きられますし、常に挑戦し続けなければなりません。
後者を頷かせるにはその今までの挑戦を知りませんし、そもそもHIPHOPの音楽においてどう盛り上がっていいか分かりません。
ですが、今も現場の最前線において両者を満足させ続けている。その根本的な理由の答えをあえて出すならもっともシンプルでスタイリッシュなスタイルを保ち続けているからだと考えています。
まず念頭に聞き取りやすさがあります。
日本語としての語感を捨てることなく、聞いたそばから意味が理解できるのは期間を空けて聴いた玄人や初めて聴いた素人にも大事なことだと思います。
そして、歌詞の内容のギミック。
現場で聴くのに歌詞なんていちいち読まないよ!という人も確かにいますが、昔ながらに歌詞カードを開いてその意味を咀嚼したり、韻の踏み方や含蓄のある表現を分析する人もいるのでとても重要です。
せっかくの機会ですので機材トラブルで音が流れなくなった状況でのRHYMESTERのライヴを観てみてください。アカペラだけで圧巻のステージングです、是非。
という盛大な前置きをした上で今回のポエトリースラムジャパン2019 全国大会という大会を振り返ります。
ポエトリースラムジャパン2019全国大会 - Togetter
上記にまとめがあるので、流れはそちらで感じて頂けたらと思います。
自分は観客として来ていて、隣にポエトリースラムも何も知らない方がいた状況を踏まえて、この記事を通して伝えたいことだけを伝えたいと思います。
色んな出演者が色んな出演者に対して、またはスタッフの方や詩をライフワークとしている方が出演者に対して感想をTwitterでツイートしている内容から察するに、
それは、技巧的な話ではないか、と思いました。
自分も作品を作り発表する身ですし、分析するのは好きですが創作的な業界にどっぷり浸かっていると今日初めて知りましたという人はその技術は分からないことを忘れがちになる、のではないか。
例えば、テキストの中で綺麗に押韻を挟み込んだ瞬間、観客席の前の方の初老の男性の方はうんうんと深く頷く一方で、自分の隣にいた方々はとにかく頭の上に「?」をずっと浮かべていました。
更に、今大会の最初の方で司会の猫道さんが、
「ポエトリースラムを知っているという方ー?」という問いに対して、
「……6割ぐらいの方がいるということで」という答えを得ていました。
この数字が正確かどうかは分かりませんが、これが正しいとすると4割が審査基準が分からず、審査することに慣れていない人たちがいたことになります。そして、ポイントは今大会の審査方法は観客による全員投票であったということ。
今までの大会の評価のつけ方が観客の中から5人審査員を選出し、10点満点で最高と最低を切り捨てた3人の合計点数で決めるといった方式だったことに対し、今大会は先ほどの4割の方々も「良かった!」と言わせなければなりません。
これは、状況としては冒頭でお話しした現場でのRHYMESTERと状況は変わりません。何も知らない素人から、全てを見てきた玄人まで納得させなければならない。
自分も審査の一人でしたが、一人一人が地方の大会を勝ち抜いてきた出場者なのでパフォーマンスが下手な人がいませんし、何をもってこの人の勝ちとするかの基準が曖昧なので審査はとても困難でした。
この状況下において、何も知らない素人の人に対してもっとも武器となるのは分かりやすいユーモアではないかというのは大会中にスタッフの方ともお話していました。もちろん、お笑いの大会ではないですしユーモアだけでは玄人の人たちを頷かせることはできません(先程の6割という数字が正確であれば尚更です)。
もうお気づきの方もいらっしゃると思います。
改めて、今大会の優勝者である川原寝太郎さんのパフォーマンスを全体的に振り返ってみると、ユーモアがありながら時代に対する風刺のある理解しやすいテキスト、客観的視点による展開づくりとポエトリースラムジャパンに出場し続けたことによって磨かれた無駄のない3分間の構成、何より最初から最後まで安心して見続けられる安定感。全ての要素が今大会と一致したのではないかと思います。
出場者の一人である三木悠莉さんは、
”努力と研鑽の人”と称していましたが、その言葉が納得のパフォーマンスでした。
そして、ここまで記事作成にあたり、出来る限り客観的な記事を目指しましたが、最後に個人的なことを。
自分は去年のポエトリースラムジャパンの大阪大会もお手伝いさせて頂き、その時の川原寝太郎さんのパフォーマンスも拝見していましたが、テキストを持つ手も震えておりパフォーマンスのキレもいまいちでした。
それに比べて今大会の川原寝太郎さんは準決勝の休憩時間にご本人にお伝えしていましたが、
「今まで見てきた寝太郎さんの中で一番良かったです」
改めて、言わせてください。
川原寝太郎さん、優勝おめでとうございます!!!
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