諦める力(読書メモ)
物事に対する考え方、捉え方が一気に広がる良書です。
本書はオリンピックに3度出場した陸上界のトップアスリート・為末大さんが、「諦める」という言葉の真実を自身の経験を交えて解説していく1冊となっています。
これまで色んなアスリートの本を読んできましたが、著者の内省力と言語化力は頭一つ抜けているように思います。本書でも著者の独自の観点や解釈が面白く、「諦める」という言葉のイメージが180度変わりました。
では、いつも通り印象に残った内容をピックアップします。
手段を諦めることと目的を諦めることの違い
たしかに何をもって「諦める」と捉えるかで意味合いが大きく変わる気がします。個人的には達成指向性が高い人ほど手段を諦める(やめる)ことに躊躇しない印象です。
多くの人は 、手段を諦めることが諦めだと思っている 。
だが 、目的さえ諦めなければ 、手段は変えてもいいのではないだろうか 。
陸上界で最も 「勝ちにくい 」一〇〇メートルを諦めて 、僕にとって 「勝ちやすい 」四〇〇メートルハードルにフィールドを変えたのは 、僕が最も執着する勝利という目的を達成するために 「必要だった 」と納得できたからだ 。
今の僕にとって 、何かを 「やめる 」ことは 「選ぶ 」こと 、 「決める 」ことに近い 。
負け戦はしない 、でも戦いはやめない
「戦略とはトレードオフ」「勝てるフィールドを見つける」「努力を娯楽化する」といった著者の戦略論には納得しかなかったです。
人間には変えられないことのほうが多い 。だからこそ 、変えられないままでも戦えるフィールドを探すことが重要なのだ 。僕は 、これが戦略だと思っている 。
戦略とは 、トレードオフである 。つまり 、諦めとセットで考えるべきものだ 。だめなものはだめ 、無理なものは無理 。そう認めたうえで 、自分の強い部分をどのように生かして勝つかということを見極める 。
極端なことをいえば 、勝ちたいから努力をするよりも 、さしたる努力をすることなく勝ってしまうフィールドを探すほうが 、間違いなく勝率は上がる 。
最高の戦略は努力が娯楽化することである 。そこには苦しみやつらさという感覚はなく 、純粋な楽しさがある 。苦しくなければ成長できないなんてことはない 。人生は楽しんでいい 、そして楽しみながら成長すること自体が成功への近道なのだ 。
迷ったら環境を変えてみる
迷いと慣れは成長を阻害するので、今の環境がベストかどうかの自問自答は大事だと思います。
置かれた環境にあまりにも順応してしまうと 、何かをやめたり諦めたりする選択がしにくくなる 。自分の今ある状況にあまりにもいろいろな人が絡みすぎていると 、諦めるという決断力が鈍る 。
新たな一歩を踏み出すためには環境を変えるのが手っ取り早い。そう思うようになったのは、自分にとってまったく普通ではないことが、誰かにとってはまるで当たり前のことであると気づいたからだ。
人は場に染まる。天才をのぞき、普通の人がトップレベルにいくにはトップレベルにたくさん触れることで、そこで常識とされることに自分が染まってしまうのが一番早い。人はすごいことをやって引き上げられるというより、「こんなの普通でしょ」と思うレベルの底上げによって引き上げられると思う。
論理ではなく勘にゆだねる
個人的にも勘=経験だと思います。経験豊富な人ほど、勘をベースに仮説を立てて、そこからロジックを詰める方法で最適解を出すイメージが強いです。
どんな分野においても 「あの人はすごい 」と言われるような人は 、無意識と意識のバランスが普通の人に比べて格段にいいように見える 。勘にゆだねるときはゆだね 、論理的に詰めるときは詰める 。無意識にその塩梅を判断しているところが 「すごく 」見えるのだ 。
能力には生まれつきの部分があるが 、 「勘 」は経験によってしか磨かれない 。だから多様な経験 、とくに頭で考えてもどうにもならない極限の経験をしている人のほうが 、ここぞというときに強いのではないだろうか 。
積む努力 、選ぶ努力
どうしても「努力=積む努力」となりがちですが、実は成功するためには「選ぶ努力」がかなり重要だと再認識できました。
努力には 、 「どれだけ 」がんばるか以外に 、 「何を 」がんばるか 、 「どう 」がんばるか 、という方向性があるということだ 。
積み重ねと違って 、 「何をがんばるか 」という選ぶ努力には 、冷静に自分を見てだめなものはだめと切り捨てる作業がいる 。これは 、精神的にかなりつらい 。まず 、目標に向かって決めたことを積み重ねられることは大事だけれども 、その次に 、自分で将来どうなりたくてそのために必要なものをちゃんと理解できているかどうかが問われるときがくる 。
「俺的ランキング 」でいいじゃないか
言われてみると、日常の中でも無意識の努力って多い気がします。これ読んで競争に対する価値観変わりました。
「自分の体型に向いているスポ ーツをつくろう 」 「俺が一番になれるスポ ーツをもっと普及させるにはどうしたらいいか ? 」 「自分に向いている仕事をつくってしまおう 」 「自分が一番になれる仕事って 、たとえば何だろう 」現実的ではないかもしれないが 、こんな発想ができたら面白い 。
現に、ビジネスの世界でニッチと呼ばれる市場を探すのは、この作業と似ている。持てる人材、技術、ロケーション、資本力で勝てる商売は何かを考える。それは自分なりのランキングをつくる行為とそれほど離れていないのではないか。
既存のランキングで上を目指すことの危うさは、その努力が無意識のうちに始まっていることである。
生まれて物心がついたころには、誰もが何らかの競争に乗っかっている。ある程度の年齢になれば、自分が参加しているランキングの正体はそもそも何なのかということを考えてもいいと思う。そこから脱落する、競争のフィールドを変えるという選択肢もあるのだ。
他者に対する期待値を低くする
この考えはマネジメントの鉄則かと思います。期待値を低くすることで、気持ちも楽になり、リカバリーもしやすいです。
「人間だから 、間違えることもある 」 「どんなに優秀な人でも 、わからないこともある 」こういうところを出発点にしていれば 、想定外のことが起きたり 、自分の思いどおりにいかないことが起こった場合に 、相手を責める心境にはならないはずだ 。自ら 「じゃあ 、どうすればいいんだ 」と考えることができると思う 。
人生を長い目で見ると 、とばっちりが起きてよかったと思えることはけっこうある 。わが身に降りかかってきた災難が 、その後の人生の転機になることもある 。他者に対する期待値を低く持つことで 、難局は好機にもなる可能性を秘めている 。
まとめ
諦めるという言葉は 、明らめることだと言った 。
何かを真剣に諦めることによって 、 「他人の評価 」や 「自分の願望 」で曇った世界が晴れて 、 「なるほどこれが自分なのか 」と見えなかったものが見えてくる 。
終始金言連発でしたが、著者が伝えたいことはこの文章に集約されてる気がしました。
スポーツだけでなく、ビジネスの世界でも共感できる内容なので、キャリアで悩んでる方には強くおすすめしたい1冊です。