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渡り歩く作品世界

 二十年以上前、最初に三行ほどの物語をネットに書いた。それから新しいものを書き続け、物語は十行になり二十行になり、やがて短編といえる長さのものがいくつか並んだ。書いた作品を公開していたがあまり読まれなかった。SNSはおろかブログというものさえなかった時代の話がそれで、まああたくしの原点、スタートはそのようにして。

 初めて応募した作品で某S社の賞の一次を通った。地獄のようにえげつねぇ青春を脚色して書いたもの。通ったのがたぶん二十一歳のときの話で、文学系のおじさんに「お前は才能あるから続けろ」といわれたり、もうなんか乗せられてその気になっちゃって、書き続けていまに至るんだけれども、まだ受賞してないんですねえ。一次とか二次には行くんだが、その先を知らない。

 こないだ書き上げた作品では執筆期間に不思議なことが起きて、現実世界に生きながら作品世界にも生きている、というような状態になっていたのだった。帰ってくるのが大変だった。これまでにもこういうことはあったんだけれども、特にキツかったですね今回のは。なんだろう、どっぷりと浸かって書くタイプなんでしょう。変性意識というか降霊というかシャーマニズムというか。まあとにかくそうやって書いた。

 これまでに書いた人物や風景がときどき思い出される。旅先でのできごとのような、人物たちのすぐそばで全部見ていたような、自分が生きてきた記憶のような、なんとでもいえるかもしれないけれども、これは書き手の人たちにはわかる話かもしれない。書くということに宿る何か。書いてきたものを渡り歩くように思い出して、何かしら想うということ。あるあるネタなんじゃないでしょうか。

 秋が深まっていくようです。ジャケットやらフーディガンやらを着ます。

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金井枢鳴 (カナイスウメイ)
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