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ブランディング講座4 心に刺さる「言葉」の威力

世の中にあふれる言葉のマジック

世の中の多くの企業は、自社のビジネスにキャッチコピーをつけたがります。

ニトリの"お値段以上ニトリ"とかTOWER RECORDの"NO MUSIC NO LIFE'なんかは耳馴染みもいいですし、メッセージがずしんと心に響きます。

こういうコピーを見ると、これをつくったコピーライターさんは、会社のことが好きなんだなとか、一生懸命、会社のことを知ろうとしたんだなとか思います。

企業のブランドステートメントは製品やサービスのコピーと違い、カバーする範囲が広いですし、受け取る側も意味を考えます。

一瞥して、あるいは音で聞いて、受け取る人が、なるほどって思えたり、そういうことなの?って想い及んだりすると、企業サイドからしたらしめたものです。

巷には、かっこいい横文字のコピーも氾濫しています。
東芝のLeading Innovationとか、日立のInspire Nextとか、既に有名な企業で世界を相手にしているのであれば、会社の事業内容を説明する必要はないので、想いを英語にするだけでも十分です。

また、同じ業種でもアプローチが異なる場合もあります。
ファミリーマートの"あなたと、コンビに、ファミリーマート"とセブンイレブンの"新しい今日がある"では違います。
ファミリーマートは軽やかな音でウキウキしますし、内容もお客様とコンビになるコンビニエンスストアだよっていうメッセージもわかりやすいです。一方、セブンイレブンは、既に誰もが知っているコンビニエンスストアであるので、あえて事業内容には触れず、抽象的なメッセージです。

私がブランディングで関わっている企業の多くは、IR的な活動の一環と位置付けているため、上場企業ではありますが、会社の規模が、ものすごく大きかったり、有名な企業というわけではありません。また、BtoB企業が多く、PRというものにたけていない会社が中心です。

そういう企業となると、会社の事業内容もイメージさせなくてはいけませんし、会社の将来性を含めイメージさせる必要があります。

なので、東芝や日立のようなアプローチは取れませんし、セブンイレブンのように事業内容に触れないというわけにもいきません。

そうなると、TOWER RECORDやファミリーマートのような、事業内容も分かって会社の良さも伝わるような、刺さる「言葉」が必要です。

なっちゃんに「凡人中の凡人」と言われない

私の関わっている日進工具のブランドステートメントの開発は、大変でした。日進工具はブランディング講座2でも説明した通り、切削工具という普通の人にはおよそ聞き馴染みのない製品を開発し作っています。

https://note.mu/19631018/n/nf1541b0c112d

こういうニッチな製造業がやりがちなのは、「〇〇の未来を創造する」とか「〇〇技術で未来を拓く」とかいう、言葉自体はかっこよく耳障りは良いのですが、プレバトの夏井先生に「凡人中の凡人」と言わせるようなコピーです。

なぜか、そういう「言葉」って、意味は何となく分かるので、深く考えないですよね。「知る人ぞ知る」けど誰も知らない会社には、そういうのだと心に刺さりませんし、何より、クライアントに「なんか普通じゃん」って言われそうです。

刺さりやすい仕掛け

翻って、日進工具ではどうかというと、”「つくる」の先をつくる”という言葉を選びました。

なんのこっちゃっていう感じですが、この会社の場合、切削工具というモノをつくるための刃物(工具)をつくっています。それをそのまま言うと、単に切削工具をつくる会社ということなのですが、日進工具の切削工具は、精密部品や精密金型をつくるための工具です。それは、自動車やスマートフォンは言うに及ばず、人工衛星の部品やMRIなどの医療機器の部品、機械式時計の部品、5GやIoT時代の到来で、超一級の製品の様々な部分で使われていくはずです。

つまり、日進工具の製品は、様々な製造の場面でソリューションを提供する、「つくる」の先をつくっているのだという、メッセージを込めたわけです。

もちろん、なんとなくかっこよかったってこともありますが。。。

また、「つくる」のかっこの中を、「宇宙」や「医療」とすれば、人工衛星や医療機器に使われているのだなと想像できます。

本当なら、この会社のこの製品に使われていますとか言えればよいのですが、この手の会社は、お客様との関係でそれを言うことができません。なので、かっこの中をいろいろと読み替えることで、様々な可能性を伝えることができるようにもしたわけです。

https://www.ns-tool.com/ja/for_crafting_tomorrow/episode/index.html

つまり、初めてこのステートメントを見たときに、「どういうこと」って考えてもらうことと、PR的には二次的な展開がしやすいように作りました。そういう意味で、日進工具のステートメントは、多くの人の心に刺さりやすいように、二つの意図をもってつくりました。少しはインパクトのあるものになったと思います。

会社のことを好きになれる人との出会いが大事

そうはいっても、こんなの結果論じゃんって思われるでしょう。まあ結果論なんですが。上に書いたようなことをどこまで意識してやったかというと、意識はしましたが、こうまでうまくいくとは思っていませんでした。

ただ、このコピーをつくったコピーライターも、私も含め、これに関わるクリエイターは、日進工具のことが大好きだったということは間違いありません。

実際、このプロジェクトに関わったメンバーは、切削工具がどういう工程で作られ、どういう用途に用いられているか、かなり細かく知っています。この会社が知ってもらえるようになることが、我がことのように嬉しく思える人たちです。

今回の終わりに、ダサいことを言いますが、プロジェクトに関わる人の熱量がプロジェクトの成否を決めるというのは本当だと思います。特に、ブランドステートメントの製作は、プロジェクトの早い段階で始まります。つまり早い段階で会社のことを知り、業界のことを知り、これから知ってもらいたいと思う人の心情に立てる人でないと、「知る人ぞ知る」けど誰も知らないBtoB型の中堅企業のステートメントはつくれません。

みんなが知っている会社のイメージを再構築するとか、製品のコピーのように訴える対象の範囲が狭いものを作るとかなら、ちゃちゃっとできるかもしれませんが、こういう企業は難しいです。

だから、「〇〇の未来を創造する」とか「〇〇技術で未来を拓く」とかいうコピーが氾濫してしまいます。

なので、会社のことを心から好きになれるメンバーをアサインすることは非常に大事です。私のような立場だと、優秀なメンバーをアサインができれば、ブランディングプロジェクトの成功の自信は確信に変わります。(←松坂大輔か!)

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