「戦わないためのブランディング」の基本姿勢を考える
僕が代表のクエストリーでは「ミッションを掲げ、その実現を目指す」中小企業の経営者のネットワーク「ブランディングクラブ」を主催しています。業種、業態、規模、エリアが異なる、独自性の強い企業が加盟しています。
本稿はクラブ会員向けに毎週配信している「ブランディングレポート」の1035号(2022年7月11日配信)に加筆修正したものです。小さな会社のブランディングのご参考になればと思い、会員外に公開します。
自社に大きな影響を与える可能性が高い相手とは戦わない
2号前の1033号のレポートの最後に、「いま考えなければならないのは、価値づくりの目的を『他と比べられても選ばれる価値』から、『他と比べられずに、真っ先に選ばれ続ける価値』へシフトすることです」と書きました。
「他と比べられずに、真っ先に選ばれ続ける価値づくり」のことを、クエストリーでは「戦わないためのブランディング」といっています。しかし、黙っていても競争に巻き込まれ、他社と比較をされるのが現実です。
競争相手がいない市場は存在しません。であるならば、「戦わないためのブランディング」とは競争ゼロを目指すのではなく、「自社に大きな影響を与える可能性が高い(=勝てる要素が少ない)相手とは戦わない」ことです。
こちらもご参考に!・・・「ブランドの価値のタネ」
日本の企業の多くは競争によって成長してきました
誤解がないように述べておきますが、「戦う=競争する」がすべて悪いわけではありません。ライバルがいることで技術や能力は磨かれます。差別化によって新商品も誕生します。競争があることで市場は活性化してきました。
むしろ、日本企業の多くはライバルとの競争を得意としてきた面がありました。戦う対象がはっきりしていることで、相手を研究し、自社の改善や改革に活かし、相互に学習し合うことで成長してきた歴史があるのです。
ところが、いまは業界を越えた競合が存在し、ネット上には世界中の競合がひしめいています。優良他社をベンチマーキングしても、差別化を図っても、すぐに同質化、無効化されてしまう時代です。
こちらもご参考に!・・・「小さな市場を深掘りする」
強いイメージのある雑草ですが、本来は弱い植物です
競争を植物の世界で考えてみましょう。雑草生態学が専門の静岡大学の稲垣栄洋教授が興味深いことを述べています。「雑草魂」というように、しぶといイメージがある雑草ですが、実は「雑草は弱い植物」だというのです。
強い植物ならば生存競争の激しい森林や深い藪でも生き残れます。しかし、雑草は生きることができず、危険と隣り合わせで、他の植物が入ってこない道路、道端、荒地、斜面、畑などをあえて生息域として選ぶのだそうです。
「弱者は実にさまざまに工夫し、戦略的に生きることを求められる。そして、他の生物がいやがるような変化にこそ、弱者にチャンスが宿るのである」「一番強い者は、自分の弱さを忘れない者だ」・・『弱者の戦略』より
大事なのは、「戦わない」のための3つの覚悟です
経営における戦いとは「市場のシェアを他社から奪うこと」です。奪うための有効な武器は価格でした。しかし、中小企業が価格競争の土俵に立つと、資本力に勝る企業には太刀打ちできず、利益はどんどん失われていきます。
その反対に価格による同質的な戦いを回避することで、利益率は高まります。理屈ではその通りなのですが、簡単ではありません。なぜならば、差別化することで、相手もまた差別化し、競争に終わりはないからです。
ここで大事なのは、「競争相手よりも顧客を見る」、「常に戦いのないところを探す」、「比較されてもネガティブにならない」・・・この3つの覚悟が「戦わないためのブランディングの基本姿勢」です。