ブランディングにつながる「正しい値上げ」のための三つの視点
僕が代表を務めるクエストリーでは「ミッションを掲げ、その実現を目指す」中小企業のネットワーク「ブランディングクラブ」を主催しています。業種、業態、規模、エリアが異なる独自性の強い企業が加盟しています。
本稿はクラブ会員向けに毎週配信している「ブランディングレポート」の1029号(2022年5月30日配信)を一般向けにアレンジしたものです。ミッション経営に取り組む経営者のご参考になればと思い、公開します。
主力商品を「自分にとっての理想の価格」に値付けする
このところ原材料やインフラエネルギーの値上げの影響で物価の上昇が止まりません。帝国データバンクが先月末に発表した主要食品メーカー195社の集計によると、2月の値上げは5463品目だそうです。まだまだ続きますね。
いうまでもありませんが、単に価格を上げただけの値上げは支持されません。いままで以上の価値が値上げの条件です。三つの視点で価値を考えてみましょう。一つ目は「すでにある価値がきちんと伝わる」ことです。
人気の品は特別なことをしなくても売れていきます。売れるという現象に慣れると、その魅力や価値をきちんと伝えようとしなくなります。あるいは、伝えたつもりになります。肝は伝えるではなく「伝わっている」かです。
魅力を見つけ出すゲームを社内でしてみてください
二つ目の視点は「角度を変えて新たな価値を発見する」。取引先でこんなゲームをしました。まずは全員で輪になります。主力商品を手に取り、その魅力を一つ語り、隣に渡します。受け取った人も魅力を語り、隣に渡します。
これを繰り返していくと、一巡か二巡すると魅力が出なくなります。それでも何とか出そうとして、視点を客側において語る人が出始めます。例えば、「○○○に使うと楽しいです」、こうなると魅力探しは続いていきます。
つまり、提供側から「使う側」への視点変更です。暮らしの豊かさや事業の発展につながるから購入するわけであり、それがなければ「やっぱり安いものですまそう」になります。顧客の声に新たな価値のヒントがありますね。
谷中のかき氷店「ひみつ堂」に学ぶ価値の付け方
三つ目の視点は「変更をキーワードに新たな価値を付加する」です。原材料、作り方、製造数、ネーミング、パッケージ、対象者、展示方法、売り方、使い方などを変更することで、新たな価値を作り出すことができます。
仕事場近くの谷中に「ひみつ堂」というかき氷専門店があります(冬でも営業中)。価格帯は1,000円から2,000円、「宮古島生マンゴー三昧かき氷(2,100円)」や「生メロン三昧かき氷(1,900円)」が人気です。
高いなあと思われるかもしれませんが、「氷は三ツ星氷室の日光天然氷」「氷の削り方は昔ながらの手動式機械を使って人力のみ」「氷にかけるのはすべて手作りの蜜」、これらの組み合わせが値段の裏付けになっています。
値上げは経営の在り方を見つめ直す絶好の機会です
値上げで問われるのは商品やサービスの価値だけではありません。顧客の厳しい視線は接客姿勢や売場のクリーンリネスなどにも向けられます。客離れは価格ではなく、値上げをきっかけに経営への疑問が吹き出した結果です。
値上げは経営の棚卸しであり、経営の在り方を見つめ直す絶好の機会です。経営に迷いがあるのならば、値上げは再検討かもしれませんね。最後にひみつ堂のブログの一文を紹介します。
「世界で1つしかないひみつ堂を作っていく」、今までやってきたひみつらしさを大切にしながら「ひみつ堂に来た全ての人に笑顔になってもらう」ことを不可能!と思わず常の目標に置きつつ、今年も夏に向けて励んでいきたい。