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見考企行  本質的なC.I とは

                                                          Cev21掲載 1990.8.10
国際化が進む中で人と金とモノと情報の往来は一段と激しくなり、グローバルなビジネスは拡大の一途をたどっている。その一方でモノはあふれ、マーケットにおける企業同士のシェアの争奪合戦が展開されている。こうした状況が強まれば強まるほど、消費者にとって企業とは何かという問いかけがなされ、旗色を鮮明にする必要性が生まれてきた。

キリンビール、ミノルタカメラ、アサヒビール、日本生命などが、巨費を投じてC.I(コーポレートアイデンティティー)を製作し、訴求したのも、要は経営の理念を正しく理解してもらうことが、ボーダレス時代の企業経営にとって最も必要な要素と判断したからである。その背景には、企業活動を支える基本的な考えや社会的使命を果たすことへの自覚、さらには存在の理由そのものを明らかにしなければならない状況が控えている。

現在のC.I は社名、社色、シンボルマークを使って視覚と聴覚に訴える方法が多く用いられている。しかし、このV.I (ビジュアルアイデンティティー)を先に述べた背景と照らし合わせると自ら限界も見られ、補完的な意味も含めて今後は現実の動きを的確にとらえた本質的なC.I が必要になると思われる。

その一つとしてP.I (プロダクトアイデンティティー)があげられる。P.I とは商品を開発する過程で企業の事業目的を明確にし、自社の能力を基点に新しく構想された企業イメージと商品の魅力をフルに生かして広く内外にメッセージとして送ることである。

その場合、企業にあってはデザインの見直しに始まった行動が、態勢の在り方や考えそのものの見直しを促し、結果として社会に対して新たな企業イメージを訴求し、存在価値を示すことになる。

第二は企業利益に直接結びつかない文化や福祉(例えば環境保全の支援など)を支援する行為が大切である、ということである。換言するならば、ふくらみ、余裕、ゆとりの中から新しい時代に対応できるデザインの創造である。

私は以前、某電器メーカーでオーディオをデザインしていた。オーディオ機器はいくら良いデザインをしても、それが置かれる空間が悪ければ何ともしようのないものになってしまう。これではデザイナーが長い時間をかけて開発してきた意義が薄れてしまう。ですからその場合、デザインだけを追求しないで一つの大きなグラウンドを同時に考えることにしていた。

つまり、音楽を聴く目的を明確にすることによってオーディオを置く収納具や音響空間、リラックス空間、居住空間、快適空間などまでデザインする。

最後は、こうしたデザインの意図や開発思想をユーザーに認識してもらうために広告媒体にまで一貫した思想をメッセージの形で盛り込んでいくように心がけていた。

こうしたことを実現していくには技術者はもちろん、音楽家、建築家、心理学者、照明家、映像家、音響設計者、マーケッター、建材メーカー、舞台演出家など多くの人々とネットを組み上げていかなければならない。

その場合、大切な事は各分野のとぎすまされた感性と豊かな情(こころ)であり、相互の共通の言語とイメージを共有することである。

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