ドライブが好き
ドライブが好きだ。
運転中に音楽はかけない。とにかく無音でひたすら運転する。
誰の声も何の音もしない、私だけの個室となる車内で、ようやく無心になれる気がする。
走行中は当然、周囲への意識が高まる。
信号機、通り過ぎる車、歩道を歩く人。
国道から見える稲の穂が前より垂れていることや雲の流れの速さまで、いつもは意識して見ないことも運転席からはよく見える。
思考でがんじがらめになった頭は、空っぽになる。
息子の保育園の送り迎えや、今日の晩ご飯のメニュー。家の冷蔵庫に何があったっけ。お弁当のおかずも無かった気がするから、めんどくさいけどスーパーいかなきゃなぁ。あぁ、食器は朝のままだ。そういえば今日は泣かないで過ごせているのかな。最近仕事も休みがちだったし。はぁ、お金ないなぁ。
そういう雑念が、一時的にスッと何処かへ行ってくれる。本を読んでいる時も似ているようなことが起きる。肩の力が勝手に抜けているのが、気持ちいい。
時間を意識して運転しないといけないことがほとんどだが、たまにまとまった時間が取れると2時間くらいはドライブする。その時の30分なんてあっという間で、気づいたら1時間経っているくらい。
学生の頃は、実家から大学までの距離をしょっちゅう走っていた。その時立ち寄った道の駅で、じゃがいもと煮卵が入った煮物を好きで買って食べていたっけ。進路を変えて、十和田湖まで無計画に走ってトンボ帰りしたり。奥入瀬渓流のブナの木の隙間から、アスファルトに木漏れ日が差していたのが綺麗だったなぁ。乙女の像まで行くと、やっと着いたぞって感じがするんだよね。
もう10年近くも前か。
ふと我に帰る。
よし、そろそろお迎えの時間だな。今日は楽しく過ごせたかな。帰りにスーパーに寄って、お菓子でも買ってやるか。
ドライブが好きだ。