珈琲と小説
こう毎日が寒いと、温かいコーヒーが飲みたくなる。
挽いたコーヒー豆をフィルターに数杯入れ、熱湯を円を描くように注ぐ。すると湯をかけた所からむくっと膨らみ、豊潤な香りが辺りに広がる。豆から出た蒸気がふわぁっと自分の顔を覆うとき、ああこれから温かいコーヒーを飲めるんだ、と肩から少しだけ力が抜ける。
数秒も持つことができないほど熱いカップを片手に、表紙をめくる。こういう時は、決まって小説を読む。現実から離れ、理想的な穏やかな世界観に包まれたい。
カーペンターズの「close to you」をかけ、外が見える窓際の椅子にそっと腰を下ろし、自分の世界に入れる時間を慈しみながらひとくち目をすする。舌の先にしびれるような熱を感じながら、小さく飲みこんで目次に目を通す。
それからは完全に意識がストーリーに吸い込まれ、ほとんど雑音も聞こえなくなる。たまに口に入れる苦いコーヒーが、息継ぎのように現実と物語のなかとを少しだけ区別する。
小一時間ほど経過し、ふぅと大きく息をついたあと本を閉じる。カップの底にうっすら残っている冷たくなったコーヒーを飲み干してしまい、こびりつかないようにすぐに水につける。飲み終わりは、いつもちょっとだけさびしい。
そんな、ちょっぴり贅沢な時間を想像する日曜の昼下がり。今日は天気がいいなぁ。