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夫婦らしさ


最近、ふ、と記憶が悪くなった。
思い出すのが遅くなっており、それは、夫との会話の中でもよくある。

「あのね、えっとね、あなたが好きな芸人が出てたの」
「そうなんだ」
「あの、ほら、わたしの好きな番組、録画してるやつ」
「うん、ありがとう。なんて番組?」

なかなか、思い出せず、会話がつまりがちになる私の沈黙に、
夫は、イライラすることなく、ゆっくりと先をうながしてくれる。

その優しさに触れる時、わたしは「本当にやさしい人と結婚できてよかったなあ」と、思う。
これが、親とか兄弟なら、たぶん、催促してくるし、イライラされる。
それに、慌てて余計に言葉をつまらせるだろう。

夫は、パソコン作業をしながら、のんびりと待っていてくれる。
思えば、夫は落ち着いているとき、いつもそうだな、と思った。
私はよく焦りがちになるのだが、夫ののんびりとした姿勢に、助けられる時がある。
結婚して1年半、少しずつ、夫婦らしくなってきたなあ、と、何かじんわりとするものがあった。

「えっとね、アレだ。〇〇TV!」
「あー、アレか。売れたんだねえ」
「ねー、よかったねえ」

などと、毒にも薬にもならない、適当な会話を交わすのが、とても心地よかった。

その日は、夜に一緒にネットフリックスで、映画を観た。
『プラダを着た悪魔』
わたしの好きな映画で、夫は初見だった。

翌日、夫から送られてきたラインに、「私は仕事が大好き、私は仕事が大すき……」と、エミリーの台詞が送られて来た。

わたしは、苦笑をもらして、いま仕事しんどいのかなあ、と、ぼんやりと思った。


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当麻 あい
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