つまり、幸せということ。 2
彼は、おそろいが好きだ。
それは、つきあい始めてから、知ったこと。
昨日の朝に喧嘩をし、昨日の夜に、彼はのこのこ家にきた。
私たちは、お互いに、ごめん、が言えない子どもだった。
家に入ってきたとき、わたしと目があった瞬間、なんだか、緊張した面もちをしていた。
おそろいが好きな彼が、珍しく別々のごはんにしたのは、ちょっとした反抗だった。
それも、まあまあ、かわいいものかな。と、思いながら、結局わたしが食べきれなかった牛肉を、彼が食べた。
(おそろいになってやんの)
心のなかで、小さく笑った。
溜めておいたお風呂に、彼は「では、お風呂で課題図書を読みます」と、言って入った。
わたしは、シンクの中を片付けながら、さて、まだぎこちないのを、どう仲直りしようか、と考えた。
考えたが、特に大した答えは見つからない。
いま、やりたいことを我慢することができないわたしは、浴室の扉をノックして、ひょこ、と顔を出した。
「ど、どうしました?」
なぜ、どもる。
わたしは、しばらく沈黙してから、「ねえ、つーくん、一緒にお風呂入っていい?」と、聞いた。
喧嘩をした。でも、一緒にお風呂に入りたかった。
くっつきたい。キスしたい。それだけだった。
彼は、少し驚いた顔をしてから、課題図書を放り出した。
夜が更けるまで、さまざまなことを話したり、お互いの体に触れた。
翌朝、彼はわたしの作った朝食を、ムニャムニャしながら食べた。
そうして、ムニャムニャしながら、またエッチをして、ムニャムニャしながら、寝た。
昼過ぎに、この間一緒に買いに行ったチョコレートを食べよう、と出すと、「ぼくは、あいさんと同じものが、食べられれば、それで良いんです」
と、昨夜よりは機嫌を直して、一緒にチョコレートと珈琲を飲んだ。
彼の大きな体で、あったかい熱に抱かれていれば、わたしは大体、安心して眠れた。
彼の腕のなかにすっぼりと、おさまるときが一番すきで、会うたびに、わたしは、だらり、と白い両腕を広げた。
つまり、幸せということ。
ねえ、お願い、つーくん。
わたしの前では、優しい人でいて。
過去と未来に悩まされないで。
いまのわたしと、一緒に同じものを見て、食べて。
それが、一緒に居るということじゃない。
そうして、彼の頬をつねると、彼は少し困ったように笑っていた。
表紙イラストレーター
アッサラーム智子さん
http://assalamutomoko.tumblr.com/