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背中のポッケに写ルンですを仕込んで走る淡路島 ~前編~
関西人、明石海峡大橋を渡る時の動画をストーリーに上げがち
明石海峡大橋を車で渡るのは久しぶりだった。関西に住んでいた頃は淡路島はよく訪れていたのだが、埼玉からとなるとかなり時間と手間がかかる。自転車でアワイチをするにしても、電車で明石まで行き、そこから船に乗ることが多かった。
久しぶりに車で橋を渡ったのだが不思議と最近何度もこの光景を見ている気がした。橋の中腹に差し掛かる頃に「あぁ、これインスタでいつも見てる光景や」と気づいた。友人のストーリーでこの光景は何百回と見た。その大きさゆえか”橋を渡ってる時の動画”はなぜかSNSにあげたくなる魔力を持っているのだろう。
橋を渡ってしばらく走ったところにあるインターから高速を降り、駐車場に車を停める。自転車を組み立て、写真を撮るために橋の下の道の駅へ向かう。
今日はひと昔かふた昔くらい前のCannondale Super Six EVOにGOKISOのホイールをつけてきた。初めてアワイチをした時の自分にとって、そんな高い自転車を買うというのは夢のまた夢だったことを思い出した。
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初めてのアワイチはクロスバイクで
アワイチを初めて走ったのはまだ大学生の頃。以前の東海道五十三チャリのシリーズで登場したSとそのクラスメイトであるiと3人で走った。
当時はまだクロスバイクであったためかなりしんどい上に、時間も相当かかったと記憶している。
iが明石港の船の乗船券券売機でお札のお釣りが出てくる口をお札の投入口と勘違いして1000円を突っ込んだ結果返ってこなくなった事件から始まった初アワイチ。
Sが「安藤忠雄建築のお寺が絶対に見たい」と駄々をこね、早朝から淡路島入りしていたにもかかわらず2時間ほど何もせずに時間を潰したのも懐かしい思い出である。
変わる景色、変わらない景色
初めてのアワイチから10年。島の景色は少しづつ変わっている。巨大観音像は無くなった。いくつかの個人商店もシャッターを下ろし、空き家となっている家も目につくようになった。代わりに新しいカフェや宿泊施設が増え、若者が訪れやすい島になっているように感じる。
大阪でお気に入りのカフェも淡路島に進出していた。時間の都合上今回は行かなかったが別の機会では是非とも訪れたい。
島の東側は比較的車通りも多いが南に行くにつれて交通量が減って走りやすくなってくる。海沿いの道を走るのでたまに車道の外側に設けられた歩道で写真を撮る。
デジャブだなと思ったら、何度目かのアワイチで四国一周編に登場したルイガノ君と写真を撮った場所だった。その時はルイガノ君はクロスバイクで私はロードだったので彼に合わせてかなり休憩をとっていた。ポカリを飲みながら眺めた景色をしばし楽しんだのち、洲本まで一気に走り切った。
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謎のパラダイス
探偵ナイトスクープという、関西で熱狂的な人気を誇る番組がある。昔そこで取り上げられたのが”ナゾのパラダイス”である。関東で言うと群馬の珍宝館や伊豆のまぼろし博覧会のような施設である。
水仙が咲く季節には水仙が咲き乱れ、広い海と潮風になびく花を眺められる美しい場所であった。ここが閉業となってしまったのはとても残念である。山の上から見える範囲でまだ謎のオブジェが残っているのが見えた。数千年後に発掘されて未来人を混乱させてくれることを祈る。
洲本を出発したのち、淡路島最初の難所となるのがこの立川水仙郷までのヒルクライムである。ナゾのパラダイスから少しダウンヒル区間になるので初めてだと「終わった!」とガッツポーズをしてしまうかもしれないが、その手はハンドルに戻していただこう。下った後にまた登り返しが待っている。
その後は地味な峠を越えてダウンヒルが始まる。そして淡路島で、いや、日本で有数の自転車で走っていて楽しい区間に入る。
無の境地に到達できる、福良までのスパルタ区間
謎のパラダイスからのダウンヒルを終えるとひたすら海沿いの何もない平坦に出る。海がテトラポットに当たって砕ける音が響き渡る。ここは信号も何もないのでTTバイク乗りがよく練習をしている。
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前から走ってきた車の運転手が窓を開けて何かを叫んでいる。
「頑張れーーーーー!!!!頑張れーーーーー!!!!」
助手席の奥さんと後部座席の娘さんも両手を振ってエールを送ってくれている。きっと温かい家族なんだろうなぁと思うとこちらも温かい気持ちになれた。
「ありがとうございまーーーす!」と、大きく手を振って答えた。
私はロードで走っていて嫌な絡まれ方をしたことがほとんどない。信号待ちで原付のおっちゃんに「かっこいい自転車だね!」と言ってもらえたり、「この先の分岐は左に行くと通行止めになってるいからこの抜け道を使ったほうがいいよ」と地元民しか知らない情報を教えてもらえたり。
いつもありがたいなぁ、優しいなぁと感謝させていただいている。毎回この人たちに迷惑をかけないためにも交通ルールは守らねばと身の引き締まる思いがする。
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そんな平坦区間が終わると、淡路島有数の難所が待っている。斜度が急な坂が3つ4つ続くことになる。距離は謎のパラダイスほど長くはないのだが、信号のない平坦をひたすら走った上で壁のような坂を連続で登らされるのである。きっと数々の修行を行った僧侶もこの道を走れば苦悶の表情を隠し切ることはできないだろう。
ちなみに私は足はなんとかつかなかったが写真を撮る余裕など微塵もなかったのでこの坂の写真は撮れなかった。この記事の読者には実際に走って体感していただきたい。
いくつかの丘を越え、福良港に到着した。以前訪れたカフェはお休みで空いていなかった。自転車乗りがたくさん来る上にご主人も自転車に乗っている(乗っていた?どちらか忘れた。)と言うことで非常に自転車フレンドリーな店だったと記憶している。
また次回訪れた際に胃袋を満たしてもらおう。今回は道の駅の前のローソンに転がり込んでタンパク質と炭水化物を接種した。