こんな舞台を観てきた(2023年8月)
8月は4作品を観劇。
初チェーホフはなかなか難しかった…。
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カラフル
世田谷パブリックシアターとアミューズによる、オリジナルミュージカル。
世田谷パブリックシアターでミュージカルの公演は、ずいぶん珍しい感じがする。
いわゆる夏休みのファミリーミュージカルのような位置付けなんだろうけど、丁寧に作られている作品だなという印象だった。
こういう公演はカラオケのことも多いけれど、ちゃんと生演奏なのが嬉しかった。
また、劇場に入った瞬間から、「セットが素敵だなぁ」と思い、後から調べたら安定の松井るみさんだった。
(4月の「ミュージックマン」でも美術がよかったと書いているので、松井るみさんの作品が好きなんだと思う。)
演出は基本的にはオーソドックな感じで、ミュージカルとしてのポイントがしっかりと抑えれていた。
おどろおどろしい冒頭や、悪夢のシーンなど一部のシーンに、演出家のクセが垣間見えた気がする。
「カラフル」というタイトル通り、「主人公が様々な体験を通して、世界はカラフルに輝いていること」に気づくという流れは、昨年上演されていた「四月は君の嘘」や「COLAR」とも通じるところがある。
今作のラストシーンでは、雨に見立てた紙吹雪が降り、寒色で寂しげだった舞台が、暖色の温かな雰囲気に様変わりするという演出があり、物語のテーマがうまく具現化されていた。
キャストでは、主人公の「ぼく」を演じた鈴木 福くんは、口跡がよく、素朴な歌声が役柄にぴったりだった。中学生の役でもまるで違和感がないのがすごい。
プラプラ役の川平 慈英さんは、出てくるだけで舞台のボルテージをグッと上げられていて、さすがだった。
客席には小学生と思しき子どもたちもいたので、「自殺」や「援助交際(劇中ではパパ活と言われていた)」などが取り上げられる舞台を見て大丈夫かなと、余計な心配をしてしまった。
一方で、原作では中学生の「ぼく」が、お祝いの席で家族とお酒を飲むシーンがあるのだが、今回の舞台では勧められても飲まない流れになっていて、少し安心した。(小説中ならまだしも、リアルな舞台で中学生役の役者がお酒を飲むシーンは渋いと思う)
少し余談になるが、「ミュージカルの時代」という扇田さんの劇評集を読んでいると、「日本のオリジナルミュージカルにおける楽曲の重要性」が何度も語られていた。
今回の舞台は、リフレインが効果的に用いられるなど、ミュージカルの楽曲らしい作りにはなっていたが、頭から離れなくなるような楽曲はなかった。
また、他の翻訳ミュージカルを観たときにも思ったが、歌詞の一部に突然英語が混じると、安っぽいJ-POPのような響きになりがちだし、リスニングの難易度が上がってしまう。この辺りの作詞・訳詞のセンスも問われるところだろう。
コロナを経て、海外のライセンス作品に頼らない、日本のオリジナルミュージカルづくりが活性化してきた印象を受ける。
今後、心躍るような素晴らしいオリジナルミュージカルに出会える日を心待ちにしている。
ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル
東宝演劇部の今年の目玉作品。
ジュークボックス・ミュージカルなので、物語としては割と薄っぺらく、正直一幕は割と退屈だなと思ってしまった。
二幕になると、物語に起伏が出てきて、最終的にはなんやかんやで満たされた気持ちで劇場を後にした。
場内には、パリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」をイメージした赤を基調としたセットが作られており、開演前から舞台の世界観の雰囲気づくりがなされている。
確かに豪華絢爛なセットなのだが、BW公演の写真と見比べると、幾分かスケールダウンしている印象は否めなかった。
「グレート・コメット」の日本版の時にも思ったが、ロングランを前提として上演されるBWと、長くても数ヶ月の公演の日本では、予算面も大きく異なるため、セットのスケールダウンは致し方ないことなのだろう。
また、せっかく風車やゾウのセットがあるのに、舞台本編では全く活用されていない点が、少し惜しいなと思った。
キャスト
キャストは、厳しいオーディションを通ったメンバーだけあって、総じてレベルが高かった。
何と言ってもクリスチャン役の井上芳雄さんが素晴らしかった。今回の舞台を拝見して、舞台のセンターで歌う姿が似合うなと、改めて実感した。
特に、二幕の"El Tango De Roxanne"から”Crazy Rolling”の流れで、サティーンへの思いがひしひしと伝わってきて、観ている私も心が揺さぶられた。
二幕終盤のアカペラでも歌唱もとても美しく、ミュージカルスターとしての芳雄さんの素晴らしさを再度実感した。
北村紗衣さんがときどき芳雄さんのことを「年齢不詳」と称されているが、今回も恋する青年の役を実に若々しく演じられていて、さすがだと思った。
サティーン役の平原綾香さんは、歌声の素晴らしさに加えて、コメディパートのお芝居もハマるなと思った。
物語の後半は、どんどんやつれていく役柄なので、最後の方に印象的なソロがないのが少し勿体なかった。
ハロルド・ジドラー役の橋本さとしさんは、緩急をつけたお芝居が印象的だった。客席に背中を向けた状態で、ちょっとした動きだけで笑いが起きるのは、ベテランのなせる技だなぁと感心。
デューク役の伊礼彼方さんは、今回も嫌味な役柄。平原さんへの横暴な態度(役柄上)を観ていて、観劇中に同じく帝劇で上演されいてた「ビューティフル」のことを何度か思い出した笑
音響に関しては、前評判でも聞いていた通り、重低音がよく響いていた点が良かった。
一階の後方席で観劇したのだが、デュエット曲などロマンチックなナンバーは少し音が小さい?遠い?印象を抱いたが、”Backstage Romance”や”Chandelier”などのコーラス曲は迫力満点だった。
”Backstage Romance”に関してもう一点気になったのが、
クリエイティブチームがどこまで意識しているかは不明だが、"Kiss Me, Kate"の”Too darn hot”とシュチュエーションが似通っていて、ミュージカルファンとしてはニヤリとした。
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"Britain's Got Talent"で披露された”Backstage Romance”のパフォーマンス
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”Too darn hot”(2017年日本公演"Kiss Me, Kate"より)
カーテンコールの”More More More Encore”も楽しく、ミュージカルの持つ過剰さを堪能できる公演だった。
ファントム
日本でも何度も上演されているけれど、私は今回が初見。
アンドリュー・ロイド・ウェバー版の「オペラ座の怪人」は何度か観劇したことがあり、個人的にはあまりハマらないなという印象だった。
今回の「ファントム」は、
・クリスティーヌがオペラ座に来た経緯
・ファントムとクリスティーヌの出会い
が明確に示されていて、話の導入は「オペラ座の怪人」より分かりやすいなと思った。
一方で、クリスティーヌの感情があまり見えてこないのは、両作品で共通なんだなと思った。(彼女の意思があまりはっきりと描かれないからこそ、三角関係が成立するのだろう)
私があまりハマらない理由は、自分でも何となくわかっていて、障がいを持って生まれてきた主人公をどういう思いで見えばいいか、わからないからだ。
「かわいそうだね」という思いで見るのは失礼な気がするし、どういう見方をしても偽善っぽくなってしまう気がして、怖い。
加えて、ミュージカルは、曲の力でどうしてもエモーショナルな空気になるので、その雰囲気が苦手なんだと思う。
(同様の理由で、「ノートルダムの鐘」もあまり得意ではない。)
今回の観劇を通して、そういう自身の考えやスタンスを再確認できた気がする。
色々と御託を並べたけれど、作品としては概ね楽しんだ。
城田さんの演出は初めてだったけれど、いい意味でわかりやすいエンターテイメント作品に仕上げているなという印象だった。
全体を通して、舞台と客席の壁(第四の壁)をぶち壊そうという心意気を感じた。
国際フォーラムCは、かなり舞台が広いが、トム・ロジャースさんのシンプルながらも奥行きのあるセットでうまく舞台上を埋めていた。
同じ国際フォーラムCで上演していた「ジキル&ハイド」の美術と少し近しいものを感じた。
キャスト
印象的だったキャストについても言及したい。
ファントム役は加藤和樹さん。(Wキャスト城田優さん)
本人の演技プランなのか、演出なのかは不明だけれど、いわゆるコミュ障のような役作りをされていた。台詞回しは軽く、時々癇癪を起こし、子どもっぽさが垣間見えるファントムだった。
そのため、殺人をも厭わない残虐性とのギャップも著しかった。
現実でも、事件が起きた際に、TVのインタビューに対して近隣の人が、「大人しくて優しそうな方だったのに、あんな事件を起こすなんて意外です」的な発言をよく聞くけど、そんなイメージのファントムなのかなと思った。
クリスティーヌ・ダーエ役は真彩希帆さん。
(Wキャストのsaraさんは、体調不良のため全公演休演となってしまった。私が観劇する回も本来はsaraさんが登板されるはずだったので、非常に残念。また何かの作品で拝見できればと思う。)
真彩さんは、宝塚時代にもこの役を演じられていたらしく、役柄がかなりフィットされている印象を受けた。
歌も演技も素晴らしかったが、一番印象的だったのは二幕でエリックの母 ベラドーヴァを演じていたシーンかもしれない。このシーンでは、ダンスで彼女の心情を表現しており、その表現に心打たれた。
ALW版のクリスティーヌは、歌がメインで、踊るのは一幕の冒頭のみなので、ここまで踊りがあることに衝撃を受けた。
フィリップ・シャンドン伯爵役は城田優さん。(Wキャストは大野拓朗さん)
ファントムの恋敵役としての存在感がばっちりだった。こういう正統派イケメンの役柄で観るのは、初めてだったので、新鮮だった。
ただ、出番や歌が少なく、最後のシーンでも完全に蚊帳の外なので、城田さんのキャリアでは役不足感もあった。
カルロッタ役は石田ニコルさん。(Wキャストは皆本麻帆さん)
昨年、劇団☆新感線の「薔薇とサムライ2」で拝見して、舞台役者としてのスキルの高さが印象的だった。
今回の「ファントム」では、ヒロインを蹴落とそうとする悪役の立ち位置でありながら、コメディリリーフ的な役割も担っており、絶妙な台詞回しで客席から笑いを取っていた。(何となくだけれど、高田聖子さんのエッセンスを感じた笑)
ルドゥ警部役の西郷 豊さんは、開演前や休憩中のアナウンスも担当しており、低めの豊な響きの声が印象的だった。経歴を拝見すると、あまりミュージカルには出演されていないようなので、面白いキャスティングだと思った。
ゲラール・キャリエール役の岡田浩暉さんは、これまでご縁がなく、拝見するのは今回が初めて。
「何なら一番の元凶では?」とツッコミたくなるようなキャラクターなので、舞台上での居方が難しい役柄のような印象を受けた。
桜の園
うーん、よくわからなかった。
チェーホフの作品を観るのが初めてだったので、そもそも作品の内容がわからないのか、演出が難解だったのか、何とも言えないところだ。
事前知識として、「チェーホフ自身が、桜の園を喜劇だと主張していること」と「チェーホフの最後の戯曲」であることは把握していた。
多くの方がおっしゃっているように、私自身もあまり喜劇っぽい印象は受けなかった。
観ていてモヤモヤとする感じは、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの作風と近い感じがした。(コロナで中止になってしまったけれど、ケラさん演出の「桜の園」は観てみたかった。)
物語の中で気になったのは、物語の中で何度か銃が出てくるけれど、決して発砲されることはないということ。
舞台上に登場するのに用いられない小道具というのは、ある意味新鮮だった。
銃声が苦手な私は、いつ発砲されるのかとビクビクしたけれど…。
ショーン・ホームズさんの演出を観るのは、昨年4月の「セールスマンの死」に続き2度目。
両作品ともに、現実感が薄い白昼夢のような世界観を感じる。
自転車(三輪車?)に乗った役者が舞台上をグルグルする様子は、「セールスマンの死」でもあったので、お気に入りの演出方法なのかなとか思った。
登場人物は、正直誰にも感情移入できないし、わざとそういうふうに作られているんだろうなと思う。
(あとあまりロシア文学に慣れていないので、名前が覚えにくい笑)
トロフィーモフ役の成河さんは、これまでエキセントリックな役柄で多く拝見していたので、今回の役柄は新鮮だった。茶髪にすることで、「若作りしている中年男性」の雰囲気が出ていたと思う。
フィールス役の村井國夫さんは、ラストシーンを観ていて、チェーホフ自身の心情が込められているのかなと思った。一人だけ時代に取り残される感じは、カズオ・イシグロさんの「日の名残り」の執事に近い印象だった。
分からないことも面白さだと思うので、今後は他のチェーホフ作品も観てみたい。
来年には、ショーン・ホームズさんが段田安則さんと再びタッグを組んで、「リア王」を上演するらしい。
どんな舞台になるのか楽しみだ。
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