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最後の帝国劇場・俳優座劇場(2025年1月の観劇記録)
2025年2月より休館および建て替えになる帝国劇場。
2025年4月で閉館する俳優座劇場。
そんな2つの劇場にも足を運んだ1月だった。
↑これまでの観劇記録はこちら↑
ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2025
シアターオーブ恒例のニュー・イヤー・ミュージカルコンサート。
今年も素晴らしいパフォーマンスで、「年明け早々いいものを観た!」と満足感があった。
シアターオーブは音響がイマイチと揶揄されることもあるが、今回の出演者の皆様はそんな音響をものともしない歌声だった。
J. Harrison Ghee(ジェイ・ハリソン・ジー)さん
拝見するのは、『キンキーブーツ』のローラ役以来。
特に印象的だったのは、『リトルマーメイド』の"Poor Unfortunate Souls"。
あまりミュージカルコンサートでは歌われないナンバーなので、とても新鮮。
ジェイさんの持ち歌なのか、歌いっぷりが良かった。
また、『ラ・カージュ・オ・フォール』の"I Am What I Am"は、これまで聴いたことのないアレンジで面白かった。
Jon Robyns(ジョン・ロビンス)さん
『チェス』の"Anthem"がとにかく衝撃的だった。
ミュージカルコンサートでは、定番の曲(特に海外の方は歌いがちな気がする)で何度も聴いたことがあるけれど、今回のジョンさんの"Anthem"がこれまでで一番良かったかもしれない。
鼓膜がビリビリするくらいの大迫力の歌唱だった。
二幕で『ハミルトン』の"You'll Be Back"を歌ってくれたのも嬉しかった。
サントラは散々聴いてたけど、生で『ハミルトン』の曲を聴くのは今回が初めて。
途中で客席に「Everybody!」と歌うように促してくれたのに、恥ずかしくて歌わなかったのは後悔。(でも周りも歌ってなかったし…)
アンケートには「ハミルトンを上演してください」と書いたので、ぜひ実現をお願いしたい。
Jacob Dickey(ジェイコブ・ディッキー)さん
なんと言っても『アラジン』の”Proud of your boy”の本物感。
一曲の中できちんとドラマが見えるのがさすが。
『王様と私』の”Shall We Dance?”をサラッとダンス付きで歌ってしまうのも良かった。
欲を言えば、『The Prince of Egypt』の曲も聴いてみたかった。
Courtney Reed(コートニー・リード)さん
『アラジン』の”A Whole New World”の第一声からプリンセス声そのもので、「これはBWのオリジナルキャストなのか」と納得の歌声。
『シカゴ』の”All That Jazz”や『ムーラン・ルージュ!』の”The Sparkling Diamond”など、一人で歌いにくそうなナンバーも、ものともせずに歌い上げられていた。
Willemijn Verkaik(ウィレマイン・フェルカイック)さん
以前に拝見した際も素晴らしかったが、今回はさらに絶好調な歌声だった。
なかでも、『エリザベート』の”Ich Gehör Nur Mir(私だけに)”、『ウィキッド』の”Defying Gravity”の2曲は群を抜いて素晴らしく、ショーストップの盛り上がりだった。
トークでは、「これまで3言語4ヶ国でエルファバを演じたので、今度は日本でも」なんてジョークもおっしゃっていたが、今後もぜひ定期的に来日してほしい。
これまでのシアターオーブのニューイヤーコンサートの中でも、特に満足度の高い公演だった。
二十歳の集い
初めて観るアガリスクエンターテイメントの公演。
『二十歳の集い』というタイトルは、劇団結成20周年にちなんだものらしい。
今回の公演は『Go as Operation!!』と『宇宙からの婚約者』の2本立て。
Go as Operation!!
前半は、ドタバタ感溢れる展開とデフォルメされた演技が気になってしまった。
終盤は、これまでのフリが綺麗に回収され、シチュエーションコメディとしての面白さを体感できた。
レンタルビデオ店という舞台設定も含めて、少し古い印象を受けたが、20年前の旗揚げ公演時の作品だと知り、納得した。
宇宙からの婚約者
こちらは二人芝居で、カップルの会話によって話がどんどん展開していくウェルメイドなコメディだった。
ただ笑えるだけでなく、切なさもあるラストで、観劇後も余韻が残った。
青山円形劇場という単語が唐突に出てきたのが、面白かった。
残念ながら私は行ったことがないのだが、よく名前を聞くので、本当に愛されていた劇場なんだなと思う。
今回は劇団結成20周年のお正月特別興行といった感じだったので、次回はぜひ本公演を観てみたい。
レ・ミゼラブル
この作品は観るたびに、新鮮に感動するし、毎回感じることが違うからリピートしてしまう。
中学・高校時代はひたすらジャベールに感情移入するような思春期真っ只中の暗い見方をしていたけれど、段々とこの作品のメッセージが理解できてきた気がする。
そのあたりを事細かに書くことは省略するものの、
特に今回は、この作品が描く貧富の差が、現代社会にますますオーバーラップしてきているよなとは改めて感じた。
下記、各公演の所感を少しだけ。
1月5日ソワレ
前回からの続投キャストも多い中、今期から参加のファンティーヌ役の木下 晴香さんとマリウス役の中桐聖弥さんが共に鮮烈な印象だった。
今回からファンティーヌ役のキャストは一新され、原作のキャラクターに近い年齢の方々がキャスティングされているが、これが功を奏していたと思う。
若く無力で、どうにも現状を打破できず、もがいているファンティーヌのドラマがこれまで以上に感じられた。
中桐さんのマリウスは、恋に浮かれてる感じが伝わってくるのが非常に良かった。
どこかノーブルな雰囲気も漂う、いいところのお坊ちゃんという感じで、エポニーヌとは明らかに身分差があることがひしひしと感じられた。
今回が最後と明言されている吉原光夫さんのジャン・バルジャンは、細やかな芝居が素晴らしい。
プロローグのシーンの説得力もさることながら、個人的にはコゼットへの深い愛情が感じられるお芝居がいいなと思う。
「バルジャンの告白」(”Valjean’s Confession”)のあと、コゼットのいる部屋に向かって投げキスをして、静かに去る背中が寂しそうで、その姿が印象的だった。
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1月25日ソワレ
今期から参加しているキャストが多い回だったが、なかでも目を引いたのがルミーナさんのエポニーヌ。
韓国のプロダクションで同役を演じられた後、日本のプロダクションに参加したという少し異色の経緯もあり、新鮮なエポニーヌだった。
細かい点だと、「警察だわ、あいつはジャベール」とエポニーヌが歌う場面で、次にジャベールが歌い始めるギリギリまで音を伸ばしているのは初めて聴いた。
とにかく歌声が素晴らしく、一幕ラストの「ワン・デイ・モア」(”One Day More”)で、ここまでエポニーヌの歌声が響いていたのは珍しい。
小林 唯さんのアンジョルラスは、バリケードを築くところまでしか思い描けていなくて、その後の具体的なプランがなさそうな印象だった。
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音楽劇 わが町
初めてのわが町。
最初で最後の俳優座劇場。
今回のプロダクションでは、音楽劇ということもあり、3幕ラストのエイミー役の土居裕子さんの歌唱で、物語がいい感じに収束した印象だった。
読んでいないので確かなことはわからないが、オリジナルの戯曲は、もう少し群像劇のテイストになっているんじゃないかなと思う。
1938年に初演された作品ということで、結婚がメインテーマの2幕は、今の価値観からするとピンとこない部分もあり、けっこう鬼門だなと思った。
結婚至上主義というか、「年頃の男女は結婚するものでしょ」みたいな言説は観ていてムズムズした。
SIX
来日版を観劇。
サントラをずっと聴いていて、今回やっと生で観られて、喜びもひとしおだった。
来日公演は集客に苦戦する作品も少なくない印象だが、この作品は売れ行きがいいようで、私が観た回もほぼ満席だった。
会場のEXシアター六本木には久しぶりに行ったが、遠回りすぎる劇場の導線はどうにかならないのかと思った。
一人ずつ自己紹介のナンバーを歌うという点では、キャッツと少し形式が似ているなと思った。
ただ、SIXの場合は、曲と曲の間の6人の掛け合いが割とあり、ここは日本語で聞いた方が理解度が高いので、芝居として楽しめるだろうなと思った。
ハイヒールで歌って踊る、演者の負荷が高そうな舞台なのに、序盤は誰も舞台袖にハケる場面がなくて、「このまま水分補給なしで、80分間も舞台上にいるのは大変すぎない?」と余計な心配をしてしまった。
(実際は、その後何度か舞台袖にハケていたので、ちゃんと水分補給もできていると思う)
字幕が凝っていて、なかには「※スパイスガール風に」みたいな注釈まで表記しているシーンもあった。
また、バンドメンバーを侍女に見立てていた点も面白い。
今年は年明けから、メディア業界に関するニュースがずっと流れていて、本当にうんざりするし、だからこそ6人の元妻たちが歴史をremixするこの物語のポジティブなメッセージに大いに癒された。
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