ミュージカルと歌舞伎の名作たち(2024年9月の観劇記録)
9月に観た4本の芝居は、今回が初演の作品はなく、どれも再演を重ねる作品ばかりだった。
何度も上演を重ねることで、作品としての成熟を感じられる作品が多かった気がする。
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RENT
サントラはずっと聴いていたけれど、実際に観劇するのは初めて。
今回の目玉は何と言っても、日本初演キャストの山本耕史さんがマーク役としてカムバックすること。
観劇前は「流石に実年齢とキャラクターの年齢が合っていないのでは?」と少し思ってしまったが、舞台上で観ると違和感がなく、英語での芝居も堂に入っていた。
気のせいかもしれないが、二幕冒頭の”Seasons of Love”では、コーラスの中で耕史さんの声がよく聞こえた気がする。
作品全体としては、一幕は暗転が多いこともあり、エピソードが有機的に結びいてこず、何だかぶつ切りな印象を受けた。
二幕に入ると、物語がよりシリアスな展開に進むこともあり、物語がどんどん立ち上がっていく印象を受けた。
すごくいいなと思ったのは、随所に挟まれる”Voice mail”のナンバー。
サントラを聴いているだけではピンと来なかったが、イースト・ヴィレッジに住む若者たちの視点だけでなく、彼らの親の視点も加わることで、物語が多層的になっている気がする。
BW初演時とはエイズに関する状況も異なり、当時の観客の方々と同じ思いでこの作品を観ることはできないのかもしれない。
しかし、作中で何度も繰り返される“No day but today”というフレーズにはハッとさせられたし、ジョナサン・ラーソンがこの作品に感じた込めた想いに少し触れられた気がする。
ライオンキング
今年は劇団四季熱が高まっているので、12年ぶりにライオンキングを観劇。
会場の有明四季劇場に行くのは今回が初めて。
これまでの四季の専用劇場と同様に、華やかで煌びやかな雰囲気というよりかは、機能面を重視した少し質素な雰囲気。(この感じに慣れ親しんでいるので、個人的には結構好き。)
たくさんのファミリーが来場していて、ミュージカルにおけるライオンキングの知名度の高さを実感した。
作品の魅力は、何と言ってもジュリー・テイモアの演出。
BWでの初演は1997年だが、2024年に観ても斬新な演出だなと感じる。
映像や特殊技術など先端技術の使用をなるべく避け、影絵など伝統的な手法を積極的に取り入れることで、逆説的に作品の鮮度が保たれているのかなと思った。
久しぶりに観劇して、サバンナの話だから致し方ないとはいえ、力あるものが権力を握る暴力的な世界だなと感じた。(ある意味、スカーの肩身の狭さが身にしみる)
一幕で嬉しそうに「僕は未来の王様だ」と語るヤングシンバを観て、脳内には「家父長制」という言葉が浮かんできたし、二幕の荒れ果てたプライドランドのシーンでは「スカーを追い出して、サラビとナラで統治してもいいのでは?」と思った。
同じディズニーでも「アナと雪の女王2」では、そういったしがらみから解き放たれたエルサを描いていたので、「シンバも無理してプライドランドに戻らなくていいんじゃない?」と口を挟みたくなった。
とはいえ、25年以上のロングランは、日本でも類を見ない快挙だと思うし、クオリティを落とすことなく上演し続けている四季の凄さを改めて感じた。
木ノ下歌舞伎 三人吉三廓初買
5時間20分(休憩2回込み)の長丁場。
全くの初見だったが、劇場で配布されたパンフレットに掲載されている人物相関図がわかりやすく、予習にちょうど良かった。
三人吉三というタイトル通り、吉三という名前の盗賊が3人登場する。
3人は義兄弟の契りを交わすのだが、個人的にはその流れが割と唐突で「そこまでの絆が生まれたのはなぜ?」と感じてしまった。(本当に歌舞伎に対して無知なので、色々と間違ったことを書いているかもしれないが)
最後は3人の吉三に物語がフォーカスしていくのだが、どちらかというと群像劇に近い印象を受けた。
演出は、杉原邦生さん。
杉原さんの演出作品を観るのは、2022年の「パンドラの鐘」ぶり。
「パンドラの鐘」同様、随所で結構なボリュームでポップな音楽が鳴り響く。
急な大きな音が苦手な身としては、耳栓をしていて観ているのが、ちょうどいい塩梅だった。
(本編が終わって耳栓を外そうとしたら、カーテンコールでも割と爆音で音楽が流れたのは、少しトラップだった)
一幕と二幕は、ステージ中央だけを使った芝居が多く、プレイハウスの広さを活かしきれていない場面が多い気がした。
三幕のラストシーンでは、舞台装置を全てハケさせ、紙吹雪が舞う中に3人の吉三だけがいるという演出で、かえって広い空間が活かされていると感じた。
キャストは、演技のスタイルがバラバラな感じで、何だか異種格闘技戦の模様だった。
公演期間の中には、スウィング俳優出演回も設けられていたようで、これは公共劇場らしい良い取り組みだと思う。
椅子との相性が悪かったのか、観終わった後は腰が痛かったけれど、昨年の「エンジェルス・イン・アメリカ」に続いて、上演時間長めの舞台も年一回くらいの頻度で観ると新鮮で面白い。
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IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ
今年観たミュージカルの中で、今のところ一番良かった作品。
今回が再々演だけど、私は今回が初見。
YouTubeの公式PVやゲネプロ映像を見て、ずっと余韻に浸るくらい、良い舞台だった。
終演後のアフタートークショーで、ウスナビ役のMicroさんが「今回の再々演で一つの完成形に到達した気がする」という趣旨のお話をされており、その言葉の通り非常にクオリティの高い公演だった。
このプロダクションの良さは、従来の日本ミュージカル界の枠にとらわれないスタッフやキャストの起用だと感じた。
原詩をリスペクトしつつ韻を踏み、なおかつ聞き取れる歌詞になっているのは、間違いなくKREVAさんの手腕だと思う。
ウスナビ役のMicroさんはナイスキャスティングの一言。一曲目の"In the Heights"から誰よりも声が出ていて、作品への熱い思いが感じられて、こちらもジーンと来た。
ベニー役の松下優也さんも好演。別の作品でも拝見したことがあるけれど、この役が本当にハマり役だなと感じた。"Benny's Dispatch"や"When You're Home"などベニーが歌うナンバーの良さに改めて気付かされた。
ニーナ役のsaraさんは、町で一番の優等生というキャラクターがピッタリ。YouTubeを見ていると、前回演じられていた田村芽実さんとは同じシーンでも衣装が違っていた。役者の雰囲気に合わせて、衣装を変えているのであれば、細部まで行き届いていて素敵だなと思う。
世界で初めてピラグア屋役に女性がキャスティングされたのも、今回の注目ポイント。MARUさんが演じているのを観て、「確かにこの役は性別に関わらず、誰が演じてもいい役だよな」と実感した。
他にも、グラフィティ・ピート役として、D.LEAGUEのチャンピオンチームのリーダのKAITAさんが出演されるなど、とにかく様々な出自の方がいながらも、カンパニーとしてまとまっているのがとても良かった。
「イン・ザ・ハイツ」がこのクオリティで上演されるなら、どうしても「ハミルトン」の日本上演も期待してしまう。
版権料の高さ、訳詩やキャスティングの難しさなど、色々な問題はあるだろうけれど、いつか上演してほしいなと願っている。