悴——あるいはオマル・ハイヤーム 川柳42句
1.失踪日記(take 1)
友だちの犬と断続する脳波
地球語で注文をした秋の茄子
ピーターの名を持つものの渡月橋
ふりかけてばかり明石家さんまの眼
ワコールに選球眼も無く入る
印鑑のヘリウムガスが隷書体
ボクサーが連用形をほしがる日
ボウリング場に不眠の指揮者立つ
太陽と織田無道からくる熱波
箴言に軽トラ混じる溺れ谷
うなぎ屋が静寂だった移動都市
ステンレスぐらいの稚児の心理学
葱を抜くPL教の教義にて
惑星に月と吉本新喜劇
2.失踪日記(take 2)——写真川柳七題
宦官の巨大枕が羊歯模様
光あれそして世界に芋焼ける
荒地派の瓜のブラックボックス化
國といふ押し入れで採るサルマタケ
ソビエトの鴨葱洗う大納言
白亜紀をスエード生地で描ききる
韻もなく今ここにある当たりくじ
3.失踪日記(2022 Remaster)+一九八四年
火星での初麻雀に月ふたつ
機械語で書かれたきりのトム・ソーヤ
虚無僧をならべた際に引くレバー
アンテナに酒家が入って来る冬だ
黄金の妻がわたってくる車道
背もたれをつくる新人演歌歌手
藻の海とパンチパーマを時差と呼ぶ
和歌山の歌手を全員自乗させ
いつまでも堀越高が鮫を飼う
アントニオ猪木の雪の長編詩
革命家倶楽部で切っているささげ
小説のさなぎがずっと解離する
剣道家以外を容れた遊園地
読みかたがメタフィクションのままの自慰
ピザ屋にも永井荷風の書いた海
連写する東洋大を逃げた蛇
モアイみな馬事公苑のほうを向き
父の名を知ってどこまで無人駅
ハロウィーン翻訳家らの肌荒れて
止まり木を派手に論考する寒さ
猪熊をエントロピーに感じない
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