松下幸之助と『経営の技法』#236
10/8 1軒のお得意を守り抜く
~1軒のお得意を守り抜くことは、100軒のお得意を増やすことにつながる。~
例えば、いつもごひいきいただいているお得意さんの1人が、その友人に次のように話されたとしたらどうでしょうか。
「自分はいつもあの店で買うのだが、非常に親切で感じがいい。またサービスも行き届いているので感心している」。それがその人の実感から出たものであれば、友人は「君がそう言うのなら間違いないだろう。僕もその店へ行ってみよう」ということになりましょう。その結果、お店を訪ねてくださう。商売をしているほうとしては、自ら求めずして、ひとりでにお得意さんを1人増やす道がひらけるということになるわけです。
そうしたことを考えてみますと、日頃、商売をしていく上で、お得意さんを増やす努力を重ねることはもちろん大切ですが、現在のお得意さんを大事に守っていくということも、それに劣らず大切だということになると思います。
つまり、極端にいえば、1軒のお得意を守り抜くことは100件のお得意を増やすことになるのだ、また逆に、1軒のお得意を失うことは100件のお得意を失うことになるのだ、というような気持で、商売に取り組んでいくことが肝要だと思います。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
これは、いわゆる「口コミ」営業です。現在、SNSでの拡散効果などから非常に注目されていますが、昔からその有効性は認識されており、松下幸之助氏も、そのことを力説しています。
内部統制の観点から見ると、経営者の「1軒のお得意を守り抜く」という意識を、全従業員の持つべき意識として徹底させることが重要です。組織をまとめるためには様々なツールがあり、それを上手に組み合わせて、意識の徹底を図ります。
特に、従業員の意識の徹底は、多様な人材がいるほど難しくなっていきます。しかも、多様な人材がいるような会社ほど、意識の徹底が必要になります。
意識の徹底には、これ1つで完了、という簡単な施策はなく、じっくりと腰を据えて取り組む必要がありますので、経営者もこの意識の徹底を折に触れて促すなど、担当者に丸投げにするだけでなく、率先して取り組む必要があるでしょう。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際に参考にすべき経営者としての素養を、松下幸之助氏の言葉から読み取りましょう。
それは、新しい顧客の開拓と、既存顧客の囲い込みの両方を、会社にやらせる指導力でしょう。1人ではできなくても、組織として手分けすればできることがあり、新規顧客開拓と既存顧客の囲い込みも、そのような類の業務でしょう。もちろん、重点的にどちらかに集中した方が、マネジメントも、従業員の側も、対応が楽でしょう。
けれども、一方に偏らず、状況に応じて適切なリソースの配分をさせることも含めて、複数のタスクを並行して処理させる指導力が、経営者としての素養の1つとして読み取れるでしょう。
3.おわりに
顧客を大事にする、ということは、様々な切り口から繰り返し説かれていることです。実際、松下幸之助氏が顧客を大事にしてきたことに関するエピソードも、沢山聞かれるところです。個人商店から大企業を作り上げてきた松下幸之助氏にとって、顧客に恩義を感じる、ということは、経営の原点の1つなのでしょう。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。