労働判例を読む#249
【北海道協同組合通信社労働組合事件】札幌地裁R2.8.6判決(労判1232.5)
(2021.5.6初掲載)
YouTubeで3分解説!
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この事案は、労働組合Yを除名されたXが、その無効を主張した事案で、裁判所は除名処分を無効と判断しました。
1.判断枠組み
除名処分は、除名処分が統制権の範囲を逸脱し、又は濫用した違法がある場合には無効になる、というルールを前提にしています。
具体的な判断枠組みは、①「統制事由」と称される除名事由に該当することと、②除名処分とするのが著しく均衡を失していないこと、の2点です。
2.除名事由・除名手続の不存在
特に注目されるポイントの1つ目は、Yが主張するXの不当な言動のうちの一部が、除名事由・除名手続が制定される前であり、根拠がないのではないかが問題になりました。
この点は、労働組合が憲法によって認められた団体であり、団結権を有することから、固有の統制権を持つとされており、除名事由・除名手続が無くても除名処分できる場合があることを認めた裁判例もあるところです。
しかしこの判決は、統制権について言及しておらず、除名事由・除名手続が存在することを前提にしています(上記①)ので、これらの裁判例と判断構造が異なります。すなわち、もし除名事由・除名手続不要であれば、①の判断が不要となりますから②だけが問題となり、処分が均衡するかどうかだけを検討することになるでしょう。
とは言うものの、仮にこの事案で除名事由に該当しない、とされた言動を考慮したとしても、それで除名処分が均衡を取り戻すほどではなさそうです。それは、例えば大会に出席しなかったことや職場集会に欠席したことですが、除名事由・除名手続制定後の同様の言動に対する裁判所の評価が、組合活動への支障が小さいとしていることを考慮すると、やはり同様に組合活動への支障が小さいと評価されると思われるからです。
そうであれば、わざわざ難しい議論(統制権があるのかどうか、除名事由・除名手続が無くても除名できるのはなぜか、そのために必要な条件は何か、それは満たされたのか)などをする必要もなく、簡潔に説明できる法律構成で判断したようにも思われます。
そしてこのような見方をすると、組合での除名処分の適法性は、原則としてこの裁判例のように①②に基づいて判断するけれども、例外的に、組合員の言動が悪質で、組合も慎重な手続きで除名した場合には、いわば救済判例として除名処分が有効となる場合がある、と整理するのが良いかもしれません。
3.除名の影響
特に注目されるポイントの2つ目は、Y除名の影響です。
裁判所が明確にしていませんが、Xの除名にYが固執し、それに対してXが訴訟まで提起して反抗した動機が分かりません。ユニオンショップ協定は締結されておらず、組合員の資格が無くなると会社を退社してしまうわけでもなく、組合を離れても会社で働き続けることに問題は無いはずだからです。
これは、Xの所属する会社が小さな会社で、組合員でなくなると人間関係がうまくいかなくなるのでしょうか。あるいは勤務する会社の性格などから組合活動が推奨され、勤務評価にとって重要であり、組合員でなくなることが会社での労働条件に悪影響するのでしょうか。
この点は、会社生活に与える影響が大きいのであればユニオンショップ協定がある場合と状況が似てきますから、それだけ組合の除名処分も慎重に行われなければならず合理性のハードルも高くなるように思われますので、裁判所も事実認定と評価を明確にすべきポイントだったように思われます。
4.実務上のポイント
特に注目されるポイントの3つ目は、本件除名処分に至る手続きです。
これは、組合自身が定めた除名手続の中で弁明の機会を与えることが必要と定めているにも関わらず、実際にはそれが実質的に守られていなかったことについて、弁明の機会の重要性を詳細に検討していること等から、裁判所が非常に重視していることが分かります。
このように、除名処分の違法性に関し、手続の合理性が重視される点は、会社の人事問題である解雇や懲戒処分に共通します。労働法では、例えば病気休職後の復職可否を判断する場合など、プロセスが非常に重視されるようになってきています。
会社経営にとって、労働組合内部の問題自体はなかなか関りが生じませんが、組合内部もプロセスが重視される状況にあることを理解し、組合活動の透明性を求めることは、意義があるように思われます。
※ 英語版
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!
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