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経営組織論と『経営の技法』#321

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ⑤変革その3 戦略的突出
 このミドルによる戦略的な突出が変革につながるための重要な点は、その戦略的な突出を成功に導くことです。もし新しい試みが失敗すれば、戦略的な突出は説得力を失い、変革はそこで終わってしまいます。 そのためにも最初の突出をトップは何としても、成功へと導くことが必要になるのです。
 大阪近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブ(両チーム名とも当時)で監督を務め、両チームを下位の球団から優勝へと導いた仰木彬氏は、3年契約の監督ならば最初の年が最も大事だと言いました。普通であれば、最初の年は上位に、2年目に優勝争いをして、3年目に優勝というような青写真を描き、最初の年は成績にこだわらず若手にチャンスを与えたり、新戦力を試したりするところを、最初の年こそ何が何でも成果を出さなければならないと言ったのです。
 なぜなら、最初の年に優勝しなくても、優勝の手応えがなければ、選手が監督についてこないからだといいます。ほんの少しの成績の向上では、いずれこの監督も代わってしまうと考え、選手はなかなか監督の考えについていかず、チーム本位ではなく自分本位のプレーをしてしまう。そのため1つでも多く勝ち、新しい監督は違うな、結果をもたらす監督だなと認識させることが必要だといいます。ですから、将来性のある若手を主体にするのではなく、外国人選手や他球団から有力選手を引っ張ってでも、最初の年こそ成果を出すことが大事なのです。
 組織変革も、最初の突出が成功するかどうかによって、その後の変革が進むかどうかが大きく変わるため、トップをはじめとする変革の推進者は、組織変革を成功に導くためにも、戦略的な突出を成功に導くことが同様に大事になるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』278頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 以前検討した「ベクトル」で考えてみると、組織が一体となって動くためには会社と従業員のベクトルが揃っている必要があります。そのためにも、変革がうまくいかないと見透かされてしまうと、様子見の従業員が増えるだけでなく、変革が失敗して元に戻らないだろうかという意識を持ち、場合によっては変革を阻害しようと動き出す者まで出てきかねません。
 たしかに、「衆議独裁」が理想であり、意思決定(衆議)されたものについては、組織が一丸となって実行すること(独裁)が大事、と説明しました。
 しかし実際に従業員全員が指示されたことを期待以上に実行してくれることは、命令や指示だけで簡単にできるものではありません。言われて渋々やる仕事や、ペナルティをちらつかされて強制的にやらされる仕事では、どうしても仕事の質・量・速度について、積極的に意欲を持って仕事をする場合よりも劣るからです。全従業員の積極的な意欲を引き出すことは、実はかなり難しい問題なのです。
 そのためにも、よしやろう、という気持ちを引き出すこと、変革の場面で言えば本文のように最初に成功を実感させることが重要なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、変革プランを命ずるだけで組織を動かそうとするのではなく、何が何でも成功を実感させることの重要性が示されました。これは、単にイメージを共有させるだけでなく、上記のような様子見や妨害を意識させず、この船に乗り遅れてはいけない、乗るからには早い段階からその貢献を認められたい、という動きを作り出します。組織での人々の動きを知っていればこそ、様子見や妨害を考えている人のベクトルを、変革を積極的に支持・支援する方向に変えさせて流れを作り出すことが可能となるのです。
 もちろん、特に変革期の経営者には、このようなリーダーシップが必要なのです。

3.おわりに
 「衆議独裁」を会社組織に浸透させ、これが機能するようにサポートするだけでなく、特に変革など特殊な状況では、自ら社内のプロセスを直接コントロールして「衆議独裁」の機能を最大限発揮させるようなリーダーシップが重要です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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