経営組織論と『経営の技法』#273
CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ④契約対応
どうしても資源の依存関係を維持せざるをえない場合にも、いくつかの戦略があります。たとえば、工場における電力は必要な資源ですが、これを使用しないで工場を運営していくことや、電力以外の方法で工場の装置を動かしていくのはなかなか難しいことです。
そのため、他の組織からの影響を少なくし、組織が自由に活動するには、資源の依存関係は維持したままで影響力を回避する戦略をとることになります。この戦略にはいくつかあります。
1つは、交渉ならびに契約することで、一定以上の影警力を及ぼさないようにすることです。たとえば、電力であれば、10年間は価格を据え置きにするといった条件で、資源の取引をする際に、交渉ならびに契約すれば影響力を回避することができます。食品会社が、農家と契約するケースがありますが、これも安定した価格と品質の農作物を安定的に確保したい食品会社側の思惑と、豊作であろうが凶作であろうが、農作物を安定的に購入してもらえる農家側の思惑が一致、つまり相互の依存度が相殺された状態であるといえます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』251頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
契約対応というと、会社組織の中に法務機能が必要、と感じるかもしれません。
もちろん、あるに越したことはありませんが、ここで契約しようとしている取引の背景、すなわち資源の依存度を相殺し、安定した取引環境を獲得する、ということを理解していれば、上記本文の具体例のように、例えば農作物の安定供給と安定購入を相互に約束するなど、双方の利害が一致するポイント、すなわち両者の利害の一致点を探せますし、それを両当事者共通のルールとして必要な条件を明確にすることもできます。当社の要求を相手に飲ませることばかり考えるのではなく、両者の利害の一致点を探す、という視点も必要である、ということですが、逆に言うとそれさえ意識した交渉ができれば、法務部などなくても、上記本文の指摘するような契約対応は可能です。
とは言うものの、やはり目先の取引条件に心が奪われ、客観的に一歩退いた視点から状況を分析し(ここでは、資源の依存度の相殺の問題であると見抜くこと)、それを手掛かりに、すなわちここでは農家にとってもメリットになる場合があるはずであると見抜いて双方の利害の一致ポイントを探すようにアドバイスできる専門家が社内に存在することは、とても心強いことです。
会社に組織的な余裕も出てきた場合には、このような法務機能も持たせることを検討しましょう。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、このような契約対応も選択肢、実現できる経営者であれば、経営の選択肢が広がります。
経営者自身が、上記のような資源の依存度の相殺という状況を理解し、状況分析し、難しい交渉(利害の一致するポイントを模索する交渉)を行うべき場合もあるでしょうが、会社組織を育てていく場合には、このような能力のある従業員を獲得・育成するなり、専門部署を設けて育てるなりする能力の方が重要になります。
その意味で、自分自身はスーパーマンではなくとも、あるいはむしろ、スーパーマンの自覚がないからこそ、優秀な人物を見つけ出して仲間に引き込む能力が必要となるのです。
3.おわりに
農家の継続供給契約の場合、農家が不利な条件を押し付けられていると感じ、抵抗するでしょうが、それを克服し、自分にもメリットがあることを理解させ、両者の利害の一致するポイントを一緒に探している、すなわち共同作業をしていると実感させることが必要です。
このような交渉ばかりやっていれば当たり前のようになることですが、多くの場合はこのような交渉はしょっちゅう行われるものではありません。安定供給の約束ができれば、次の機会まで(若干の修正交渉はあるかもしれませんが)取引条件の基本構造から交渉する機会がなく、通常の契約よりもさらにその頻度が低いからです。
このような難しい交渉だからこそ、上記本文で示された資源の依存度の相殺、などの視点が重要になってきます。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。