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松下幸之助と『経営の技法』#209

9/11 生きた経営のコツ

~日々反省を重ねていってこそ、経営のコツを悟ることができる。~

 経営学は学べますが、生きた経営のコツは、教えてもらって「わかった」というものではない。いわば一種の悟りともいえるのではないかと思います。
 お釈迦様は、6年間山にこもって修行されましたが、それでも悟れなかった。そこで苦行をやめて山を下ってこられて、乙女に助けられた。そしてその乙女の差し出す山羊の乳を飲んで菩提樹の下で一服された時に、ほっと悟られたといいます。一所懸命の修行のあとで、安楽にしてじっと考えられた時に、ふっと気がつかれたわけです。私は経営のコツをつかむものでも、そんなものではないかと思うのです。
 つまり、日々の経営者としての生活の中で、1つひとつの仕事に一所懸命取り組みつつ、その都度、“これは成功であったな”とか、“成功であったけれどもここのところは完全ではなかったな”という具合に反省を重ねていく。そしてそれが、やがて意識しないでも考えられるというか、反省できるようになることが必要だと思います。そういうことを刻々にくり返していると、だんだん間違いをしないようになる。ということは、経営のコツがわかってきた、ということになるのではないかと思うのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、経営者個人の能力を高めるポイントが議論されていますが、それを会社組織の内部統制の問題として検討しましょう。会社組織は、経営者が自分のミッションを果たすためのツールであり、経営者個人の知識やノウハウ、能力を高めるだけではなく、同時に会社組織の持つ知識やノウハウ、能力も高めなければ、会社組織が経営者についていけない状態になってしまうからです。
 その観点で、会社組織の能力を高めるべきツールとなりそうなのが、①「日々の…生活の中で」、②「1つひとつの仕事に一所懸命取り組みつつ」、③「その都度、…反省を重ねていく。」という3つの点でしょう。
 まず、①です。
 これは、例えば毎年の決算が出たときに、決算の内容だけを問題にするというような、「結論」だけを気にするのではなく、日々の「過程」も大切にする、という意味に解釈できるでしょう。もちろん、結果が出なくても頑張ったらそれでよし、という慰めや言い訳としての「過程」ではなく、少しでも良いものを作り、競争力を少しでも高めるために、結果だけでは目に見えないようなところも磨き上げる、という意味での「過程」です。
 次に、②です。
 このように、日々の取組みの「過程」のから見直していく、となると、②に繋がっていきます。目に見える結果に甘んじるのではない、だから「1つひとつの仕事に一所懸命取り組む」ことになるのです。
 さらに、③です。
 これは、リスク管理の観点から見たら「PDCAサイクル」、ビジネスの観点から見たら「カイゼン」「QC活動」「シックスシグマ」、などに該当するものです。それぞれ、充分に一般的な言葉であって、わからなくても簡単に調べられますから、ここでの説明は省略しますが、都度、反省し、改善していくことによって、会社の体質が強くなっていきます。特に、後者は戦後の日本産業を復興・成長させる大きな原動力となったものであり、その効果が絶大であることは実証済みです。
 このように、経営者個人の成長にとどまらず、これを同時に会社組織の成長につなげることも併せて考えなければなりません。それが、会社を任された経営者の責務です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者自身が自己研鑽するのは、会社を託す株主として非常に心強いところです。
 もちろん、遊び心も大事ですが、経営者自身が向上心を失ってしまえば、会社が向上心を持ち続けることは至難の業です。このように、ここでの松下幸之助氏の言葉から、経営者の資質を読み取ると、向上心を持ち、自己研鑽をいとわない人柄が、重要なポイントとして浮かび上がってきます。

3.おわりに
 それよりも、気になるのは「経営のコツ」の中身です。一朝一夕には手に入らないことがわかりましたが、それでも、経営の神様の「悟り」を、ぜひ聞きたいものです。
 しかし、ヒントは沢山ありますので、「経営のコツ」を読み取り、感じ取るつもりで、先人の言葉を学んでいきましょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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