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労働判例を読む#383
今日の労働判例
【三多摩合同労働組合元組合員事件】(東京地立川支判R3.9.16労判1258.61)
※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK
この事案は、労働組合Xが脱退した元組合員Yに対し、Yが元の会社Kから訴訟によって獲得した損害賠償金の1割について、組合のルールに基づき、「賦課金」として支払うように請求した事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。
1.事案の概要
YがXを頼ったのは、平成13年でした。Kから退職勧奨されたことがきっかけのようです。その後、YはKから解雇されてしまい、Xが同年から平成23年まで、団体交渉等を行ってきました。
他方、Yは平成17年に、弁護士を雇って訴訟を提起し、平成18年に約1400万円の支払いを命ずる判決を獲得し、弁護士報酬などを除いた1300万円弱を受領しました。
Xは、平成22年に組合のルールを改め、10%の賦課金を支払うルールを定めました。
Yは、平成24年にXを脱退し、Xは平成25年と令和1年に、カンパや付加金の支払いをYに求めました。
このように、労働組合の団体交渉の報酬にも相当するような金銭の支払いについて、Xの請求を否定したのです。
2.実務上のポイント
裁判所は、YがXに加入した時点でそのようなルールが存在せず(厳密には、かつて存在していたが、その具体的な内容が不明確になっていた)、Yにそのような説明もされていなかったうえに、賦課金に関するルールはずっと後に定められたことから、請求権が発生しない、という趣旨の判断をしました。
Yの気持ちとしては、弁護士が賠償金を獲得してくれたのであって、Xではない、という思いがあったのでしょうか。あるいは事前に説明を受けていない、という思いがあったのでしょうか。
法律構成としては、本判決の示したように、根拠となるルールが存在しない、ということも可能でしょうが、賦課金という対価を得るほどの仕事をXがしていない、ルールの事前説明がないので、そもそも契約が成立していない、等の法律構成が考えられるところですが、裁判所は後者の法律構成を採用したのです。
会社から見た場合に、本判決は、従業員に対して金銭を請求する場面、例えば、留学させた場合の費用を、会社に戻らなかった場合には返還請求するなどの合意に基づいて返還請求する場面等では、参考になるかもしれません。留学前に明確なルールを定め、従業員に納得させておかなければならないのです。
さらに、会社と従業員との間のトラブルに関し、従業員が加入した組合が関与してきた場合には、その組合と従業員との間で本件の「賦課金」のような問題が生じているかもしれない、ということは、留意しておくべき背景事情となるでしょう。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!