労働判例を読む#426
【社会福祉法人セヴァ福祉会事件】
(京都地判R4.5.11労判1268.22)
※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK
この事案は、被告Yの運営する保育園の元保育士Xが、退職後、未払給与(残業代など)の支払いを求めた事案です。裁判所は、Xの請求の多くを認めました。
1.人事制度の問題
Yは、人事制度の設計と運用が十分確立していないようです。
例えば、労働時間の管理業務を少しでも減らそうと考えていたのでしょうか、変形労働時間制が導入されていた、月額固定級しか支払わないことについて同意を得ている、などと主張しています。しかし、いずれも必要な条件が満たされておらず、有効性が否定されました。
また、園児と一緒に昼食を取らなければならないことから、昼休みが無かった、全て労働時間として計算する、と評価されてしまいました。
さらに、Yの経営に関わる地位になかった、等として管理監督者性も否定され、多額の残業代の支払いを命じられました。
さらに、従業員に健康診断を受診させる義務を果たしていないとして、自費で受診した健康診断の費用の負担も命じられました。
いずれも、弁護士や社労士に相談すれば適切に制度設計や運用ができる問題です。従業員の理解を得ながら柔軟に対応してきた、という気持ちでいるのかもしれませんが、このようにトラブルになってみると、従業員の善意や頑張りに甘えていた、と評価されかねません。労働法制度の基本をしっかりと遵守することの重要性を確認させられる事案です。
2.実務上のポイント
このような、Yの杜撰な状況が影響しているのでしょうか。
例えば昼の休憩時間について、それを全て否定するような本判決のような裁判例は見かけたことがありません。また、タイムカードが提出されなかった時期について、Xの主張をかなり認めた労働時間を推定しています。
もちろん、長年勤務してきたXがYと仲違いして退職し、訴訟に至ったのですから、個人的な事情もあるでしょうが、労務管理は、従業員との個人的な信頼関係だけで行うものではありません。法的なルールを遵守し、合理的な人事制度の構築と運用も合わせて労務管理を行わなければ、本事案のようなトラブルを生じさせ、会社に多大な影響を与えることになりかねないのです。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!