私はオールラウンダー
私はオールラウンダー。全方位に弱点無し。
全てを見通し、全てを知り、全てに答えられる。
南の果ての大海に閉ざされし小さな島に捕らわれた者と、思うなかれ。
私は知っている、長い時の流れを。私は見ている、遠い彼の地の出来事を。
鳥は歌い、波は囁く。風は伝え広げ、大地は響き吐息を沈める。
数多の声を私は聞く。数多の嘆きに私は憂う。
数多の叫びが、幾度となく、私を通り過ぎる。
私はオールラウンダー。
なのに誰も、私に尋ねない。私ならば全てに答えられるのに。
「ねえ? 思わない?」
「何が?」
「……何かを待ってるみたいな、気がしない?」
「……モアイが?」
「そんな感じがしたんだよね……。子供の頃、モアイの写真を見た時から」
「だから、来たかった?」
「うん。でも……、待ってたのは、私じゃなかったみたいだな……」
「なんで?」
「だって……」
「せっかくここまで来たんだから。聞いてみれば? 直接」
「……聞けないよ……」
「なんで?」
「一杯話し始めたら、抱えきれない。そんくらい長く長く居るんだよ?」
「……。ちゃんと聞こえてるぜ。それも」
指を差す。
私はオールラウンダー。
全てを知り、全てを抱き。揺ぎ無く、ここに居る。
※このお話は、一枚の画像にひとつの小さなお話というコンセプトの個人企画です。お読み頂きありがとうございました。
追記するのは、邪道な気がするんだけど。ここに書きます。
なんでだろう。これを書いてたら、書き終わって読み返したら、なぜか泣けてきた。わかんないけど。くわしく書くと、読者の皆様のイメージに介入しそうだから、ここまでに。
このお話は。「オールラウンダー」という単語があたまに浮かんだのが、きっかけです。あー、ショートに出来るなと。単語の意味をサーチで確認してから、単語に似合う「堂々とした」画像をみんなのフォトギャラリーから探しました。ら、「モアイ」! 素晴らしい。と、そこから膨らませて。
素敵な画像を使わせて頂き有難うございました。