富士山と息子(本当に短編、読まんでいい)

「お母さん、僕の夢は、富士山を爆発させることなんだけど、いいかな」

寝る前に息子が突然、もじもじと伝えてきた。
富士山を爆発か。物騒だな。

「どうして?」

「今日学校で聞いたの。日本で一番おっきいんだって。そんなの、嫌じゃない。」

「嫌なの」

「だって一番だよ。おっきさが、一番だよ?」

息子は富士山がおっきいのが気に食わないらしい。
そういえば、新学期の身体測定のあとから息子は背の順が一番後ろになって喜んでいた。
小中学生の子供は、どうしてか身長を気にするよね。

「息子くんが、おっきくなったら、富士山よりおっきくなったりしない?そうしたら、爆発させなくていいんじゃない?」

「させるね」

「どうして」

「だって富士山だもん」

「そうかぁ」

富士山(「〇〇さん」と呼ぶテンションで)、お気の毒に。どうしたって息子はあなたを爆発させたいみたいです。

「ママね、実は富士山登ったことあるの」

「どうだった?」

「すっごくね、たいへんだった」

「どのくらい」

「ママの膝、反対に曲がっちゃうかと思った」

「ひぇー」

ママの膝、反対にならなくてよかったよ。
反対になる前にやめたから。
本当はもっと登りたかったけど、それ以上登っていたら膝も肘も腰もみんな反対になってたかも。

「息子くん。ママやっぱり、大人になったら爆発させたらいいと思うな。」

「僕の膝も、反対にならない?」

「なるかも知れない」

「それはやだよー」

布団を目まで覆ってケラケラ笑う息子。

「なるかも知れないけど、爆発させたいって思うなら爆発させちゃったほうがいいよ。爆発させたいって思わなくなったら、もうずっとおっきいまんまだよ」

「いいよー膝曲がっちゃうー」

もぞもぞと息子が私の布団に潜り込んでくる。
息子を捕まえてぎゅっとすると、ケラケラと篭った声が私は愛おしくて、また強く抱きしめた。

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