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楽しんで。

皆さんはプランクという筋トレをご存知だろうか。筋トレに詳しい方、筋トレ初心者の方、筋トレに無縁だけどSNSやネット検索をされる方もどこかで目にされているだろう、体幹を鍛えるトレーニング。

腕立て伏せの要領で腹這いになり、手のひらから肘までを床につけて体を持ちあげ、頭、肩、腰、が一直線に繋がるように真っ直ぐの体勢を数十秒間保つ。

この有名な筋トレを教えてくれたのは甥だった。

おばあちゃんになったら森へ帰ろう。ツリーハウスを建てよう。木に負担が掛かるなら、テントで暮らしたらいい。そのために体を鍛えたい。どんな筋トレがいいのか。

「プランクは?」そう言って彼はさっと、その模範姿勢をとった。

ただまっすぐでいること数秒間。真似してみるとなんとかできた。動きがなく寡黙なさまも好みだ。どうせやるならと「プランクチャレンジ30日」なるものをはじめることにした。1日目は20秒。何日かごとに時間を延ばしていき30日目には5分間に挑戦するという。

肘を肩の真下に直角になるように置き、頭を上げない、下げない。脇を締める。お尻でわりばしを挟むように引き締めて20秒、30秒。意外と楽勝。そのままなんと、40秒。とうとう1分の大台へ。下腹が細かく震え腕がだるく腰も痛い。目をつむる。ツラいと思うな、私よ。まっすぐな木。私はまっすぐな木。体を支えているだけだ。
持ち直して自信をつけた1分30秒。そして迎えた2分間。腹回りをなでてみる。気のせいだろうか固くなっているではないか。気を良くして姿勢をとりタイマーをかける。下腹で支える感じがある。いい調子。

しかし1分30秒を越えたあたりで、肘が痛くなってきた。いくら自分を木だと思っても、腰の高さを調整しても、脇を締めなおしても、尻を引き締めても肘が痛い。目をつむる。大丈夫。痛い。まっすぐな木が横たわっている。長い。まだだと膝をついてしまいそうで残り時間を見られない。長い。変な汗がにじむ。まっすぐな木。肘が… ピピッ、ピピッ、ピピッ…      バタッとそのまま腹這いになり息をついた。やっと終わった。まだ16日目。この先続かないかもしれない。

肘が痛むことははじめてだった。これはこのままでいくとさらにどこかを痛める。私は甥に電話をした。肘が痛い。どこが間違っているのかな。すると彼はうんうんと聞きながら、続けることで自分に自信をつけたいよね、などと呟いた後にこう言った。

「楽しんで。」

無理に2分とかじゃなくていいから。筋トレしたことない木空ちゃんなら20秒とか30秒でいいから。長い時間とかやりたいならやってもいいけどさ、あと、毎日続かなくてもいいから。大事なのは出来なかった日があってもそれを責めないこと。楽しんで。

わかった。ありがとう。やってみる。 私は電話を切った。楽しむ。考えもしなかった。筋トレを楽しむ。頭になかった。どう楽しめばいいのか全くわからないが、楽しんで、という言葉が肩の力を抜いてくれた。私は明日からのプランクを見直した。時間を増やしていくのは止めよう。ここまできて負けたようで悔しいが無理すると怪我をする。甥はそうも言っていた。でも、1分。せっかくだから1分で続けてみよう。もう一度正しい姿勢を復習して。大事なのは楽しんで。        

あれからもう、2年半をすぎるけれどプランクは続いている。プランクには応用も色々あるらしいが、基本姿勢を1分。たまにできない日もあるけれどそれでいい。今ではプランクで調子が悪い日がわかる。長くサボると姿勢がブレる。瞑想のかわりにもなるようだ。もう肘は痛くならない。             毎日歩いて仕事に行っている。好きな道を選んで30分くらい歩いていく。ストレッチもはじめた。いいなと思う整体の先生の動画を見ながら固まった筋肉を伸ばしている。              

楽しめば続けられる。甥がくれた言葉が、続けるということのハードルを下げてくれた。  







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