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maimaica
じらじら
あなたにも見えますか?暗闇のじらじら。
お休みなさいと電気を消して、すぐに目を開けてもまだ見えない。
しばらく横になり寝返りをうってもなかなか意識が遠のいていかず、頭の中がいつまでも騒がしくて落ちつかない。そんな時にふと目を開けるとじらじらは目の前にいる。動くはずのないものがじわりじわりと動きだす。
なにかじらじらして見えるから。それがじらじらの由来だ。勝手にそう名付けたのはすでに不眠症だった子どもの頃だと思う。
私の家族はよく眠る。歯ぎしり、寝返り、いびきに寝言。毎晩、それぞれが出す音を聞きながら、ひとり目を開けてじらじらを眺めていた。
まだテレビの放送が夜中で終わっていたころ、砂嵐と呼ばれるものが存在していた。砂嵐とじらじらは似ているけれど、じらじらの方が粒子が細かく、砂というよりは粉に近い。黒と白の微粒子が細かく震えるように明滅していて、その中に生まれる灰色の濃淡が光ったり沈んだりしている。それらの微細な動きに見とれていると、吊り下げられた電気の紐がくるくる回りだし、天井の隅から金色に光る漢文が現れ、脚の長い生き物がふわりと舞い降りてくる。
そういうものをじっとみていた。今見えているこれは何なのだろうと、少し怖いような気持ちで。
湿気っぽくてひんやりとした空気が細く開けた窓から入ってくる。暗闇の中、目を開けると壁から小さい生き物がゆらゆら生まれ、なんだかわからないものが跳びはねている。