難聴のわたしと補聴器
40代半ばのわたし。
補聴器を両耳で使い始めてからまるっと9年になる。
子どものころから聞こえは悪かった。内緒話は聞こえず、いつも肩身がせまかったし、大人数での会話は聞き取ることが難しく、あいまいに笑ってごまかしていた。
話相手の口を読んだり、わからないところを想像で埋めたり。たまごアレルギーをなまこアレルギーだと信じこんで、会話に参加していたこともある……。
注意深く聞くことは実に骨の折れることだった。
娘が9才のとき、難聴がさらに進み、娘の声が聞き取りにくくなった。娘は「ママはわたしだけを無視してる」と泣く。夫の低めの声はだいたい聞こえる。息子はわたしが聞こえてないと気がついて、いつ頃からか目の前でしか話さないようになっていた。
申し訳ない気持ちを抱えて、でもしぶしぶ耳鼻科にいくと、特に高い音が聞こえにくい、※感音性難聴の診断が出た。治療法はなく医者から補聴器を勧められたが、最初から素直に試そうとは思えなかった。補聴器をつけた見た目を受け入れられない……。
夫に補聴器のことを話すと、
「つまり、眼鏡と一緒だよね。とりあえず、試してみたら?」
あまりに軽い物言いにショックを受けたが、返す言葉が出てこない。わたしは聞こえなくて辛いという気持ちに寄り添ってほしかった。むかむかとしながら、その夜は眠った。いきなり、怒りだしたわたしに夫は戸惑っただろう。
うじうじと悩むこと1週間。眼鏡をなんの疑いもなくかけているわたし。どうして、補聴器は嫌なのか……。さんざん考えて、落ち着くと夫の言葉はしごく真っ当だと思えた。
そうして、ようやく腹がすわったのだった。
補聴器を試してわかったこと。補聴器はすべての音を聞こえるようにしてくれるわけではない。それに、聞こえるようになるため、わたし自身の訓練が必要だった。
耳から入る音を「雑音ではない音」と認識して聞いてみる。脳の残された聴神経を鍛えるイメージだ。最初は雑音ばかりが聞こえて、すぐに疲れてしまった。けれど、人は慣れるもの。だんだんと装着時間を伸ばしていくと、必要な音が無理なく聞こえるようになっていく。
補聴器をかけ始めて、その聞こえに慣れてくると、世界は一変した。初めて聞く音にびっくりする日々。わからない音が何から出ているかを探す、音探しがマイブームになった。
静かな場所で耳をすますと、ありとあらゆるところに音が存在しているのがわかる。時計の秒針のカチコチ。エアコンの動く音。冷蔵庫の扉が開けっ放しのお知らせ音、炭酸の弾ける音、虫の音……
どの音も生まれてはじめて聞こえた音だ。
補聴器でも聞こえない音はやっぱりあるが、補聴器のおかげで聞こえに困ることはぐっと少なくなくなった。
娘の声も聞き取れる。大人数のランチにも参加できるようになり、会話が楽しいと初めて思った。見た目もすぐに慣れたし、つけていることに気がつかない人の方が多いくらいだ。
補聴器のおかげでわたしの世界はぐんと広がった。聞こえることはなんて素敵なことなんだろう。
ふと、夫に「ありがとう」を言うのをすっかり忘れていたことにいまさらのように気づく。
「あのとき、補聴器は眼鏡と一緒っていってくれてさ、ありがとね。それから、怒ってごめんねぇ。ほんとに眼鏡とおんなじだったわぁ。高価な補聴器、大事に使うわねぇ。」
難聴者からのお願い
話をしても反応が薄い場合、もしかしてお相手は聞こえていないかも。
まずは、そういう視点を持っていただけたら。
・後ろや横並びではなく、目の前でお話したいです
・声を張り上げるより、ゆっくり、区切って、だとわかりやすいです
・聞こえていないようなら、同じ意味の別の言葉に言い換えたら、聞こえるかも?
・身ぶり手ぶりを添えて話していただくとわかりやすくて助かります
・人の名前や地名などは、メモや携帯画面に文字で書いてほしいです
・聞き返しさせてください(あなたとのコミュニケーションあきらめたくはないから)
・大人数との同時の会話は、聞き取ることが困難です。ご理解ください。
これすべて知ってみえる方へ
助かっています。うれしいです。
いつもありがとうございます♪
なんちょうなんなん
難聴を抱えてみえる方すべての助けになる内容です。よかったら、見てくださいね。
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