きみは…
もう、3年ほど前になるだろうか。
散歩中に、見慣れぬ鳥が1羽たたずんでいた。川沿いにある、棒のてっぺん。
ん?きみは…
わたしは立ち止まる。
黒っぽいのつやのある羽、黄色のくちばし。からすよりは大きく、首が長い。全体的にスラリとしている。
羽を広げて、なんだかリラックスムード。わたしも見ていて、ほんわか気分。なんだか、癒される。
次に、そのこに会ったのは小川だった。川面に浮かんでいるかと思ったら、いきなり潜った!再び、戻ってきたときには魚をくわえていた。わたしの姿に気がついたのだろう。魚を飲み込むと、バシャバシャと慌てたように飛びたった。
わたしはしばし放心。そして、わかった。
あのこは「鵜」だ。長良川での鵜飼は有名だが、この辺では見かけない鳥。野生の鵜もいると聞いたことがあるけれど、ここが気に入って、お引越ししてきたのだろうか。
それから、わたしは散歩途中に鵜を探すようになった。会えるとなんだかラッキーな気分になる。近づくと逃げてしまうから、みつけても近づかない。なんとなく様子をみて、「今日も元気そうだ」と安心している。
鵜について調べてみた。あのこは川鵜だとわかる。
鵜は、獲物をとるとき以外はあまり水にはいることがないようだ。潜水で魚などをとるため、水鳥特有の油を出す機能が弱く、羽をよく乾かす必要があるらしい。
だから、羽繕いも念入りにし、よく羽を広げているのか。
ある日、うちの真ん前の川縁に、電信柱が建った。
その景色に違和感がなくなったころ、てっぺんに黒い鳥がよくいることに気がついた。あっ、鵜のあのこだ。同じ個体かどうかは、わからないけれど、いつも1羽でいるから、たぶんそうじゃないかな。どうやら、お気に入りの場所になったみたいだ。
そして、この5月半ばのある朝のこと。
洗濯物を干すときに、電信柱のてっぺんにあのこがいた。1時間後、買い物をしに出かけるときにも、まだいる。買い物から帰ってきても、まだ、そこに。
5月だが、もう最高気温は30度ほど。ずっと、強い日差しを黒い体に、さんさんと受けていて、熱中症にはならないのだろうか…ちょっと、心配になる。
電信柱のてっぺんからの景色を想像してみた。近くに幹線道路があり、車がよく通る。反対側には、遠くに山々が連なる。足元には、田んぼが広がって、なみなみと川も流れている。風も通るし、日差しを遮るものもない。うん、気持ちのいい場所だね。
田んぼに水が入ってきて、蛙が一斉に鳴き出した。
そろそろ、田植えが始まるなぁ。