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【宝石の原石】③自分のストーリーを生きる
辻仁成さんの『ミラクル』は、傑作だ、と私は感じている。
亡くなった母のことを、「生きている」と父から言われてずっと信じていたアル。
街中を彷徨い、母親らしき人を見つけては、いたずらをしたりして、自分の母親ではないか、と試すことを続けていた、そんな時、出会った少女に「私も同じ状況だったからわかる。あなたのお母さんは、もうこの世にいないわ」と言われる。
自身が妻の死を認めたくなくて、ずっと嘘をつき続ける父親。
最後にアルが父に向かって口にした言葉は…
『サンタクロースっているんでしょうか?』という本も、よく人に紹介する。
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投書に答える形で掲載、いまも語り継がれる名社説を本にしたもの
…目にみえない世界をおおいかくしているまくは、どんな力のつよい人にも、いいえ、世界じゅうの力もちがよってたかっても、ひきさくことはできません。
ただ、信頼と想像力と詩と愛とロマンスだけが、そのカーテンをいっときひきのけて、まくのむこうの、たとえようもなくうつくしく、かがやかしいものを、みせてくれるのです。
私たちは、自分たちが思っているよりも、ずっとずっと信頼や愛に守られている。
世界そのものが愛なんですが。愛は、エネルギーだ、と思っている。でも、目に見えるものばかり信じる世の中では、愛や信頼をも、目に見える形であることを求めるようになった。
『ミラクル』のアルは、母と会う。それは、たぶん父のことも救うことになる。
ニューヨーク・サンという新聞社は、少女にこの世界がどんなものでできているかを伝える。
この2冊は、
愛を、思い出させてくれると同時に、
この世界を、きちんと自分の目で編み直す大切さを教えてくれる。
自分のストーリーを生きる、とは、自分勝手な解釈をすることとは違う。
ずっと、この世界で受け継がれている愛というものを、
受け取った上で、
世界を見つめ、
自分がこの世の中に何を注ぐことができるかを考えるということだ。
この世の中には、
実はサンタクロースを信じている人がたくさんいることを、
私は知っている。
そして、私も信じている。
信じている人がいる限り、私たちは、みーんなサンタクロースのいる世界を生きている。
と、全員が思える世界を 願う、11月の夜。