グレイハウンドに乗って
大学2年生のとき、グレイハウンドと呼ばれる長距離バスを乗り継ぎながら、約1か月半、友人と2人でアメリカ国内を旅行したことがある。今から40年以上も前のことだ。
グレイハウンド(Greyhound Lines, Inc.)とは、アメリカ合衆国で最大規模のバス会社のことだが、同社が運行する長距離バス自体もこう呼ばれている。グレイハウンド社は、アラスカ州とハワイ州を除くアメリカ合衆国全土と、カナダ、メキシコの一部の都市を結ぶ膨大な数の路線を持ち、合衆国内だけでも3,100以上の路線が存在するという。
約1か月半の行程は、成田を飛行機で出発して西海岸のシアトルに降り立ち、グレイハウンドを乗り継ぎながらカナダとの国境沿いにニューヨークへ向かった後、そこからニューオーリンズに向かって南下し、今度は西海岸のロサンジェルス、そしてサンフランシスコを目指す、というものだった。
当時(1980年代)、このグレイハウンドには「1ヶ月間、乗り放題」のクーポン券があり、それを利用したのだ。旅の体験談を集めた『地球の歩き方・アメリカ編』というガイドブックを片手に、全行程のおよそ半分は車中泊という貧乏旅行だった。
グレイハウンドは砂漠の中を何時間も走り続ける。窓の外に見えるのは砂ばかり。1時間ほど眠ってから再び外を眺めても、目に映るのはまったく同じ景色、ということも珍しくなかった。
だが突然、はるか前方にビルの群れが見え、次第にそれが近づいてくる。そのくり返しだった。
グレイハウンドには白人の客も乗っていたが、多くはアフリカ系やヒスパニック系、アジア系の乗客だった。そして、決まりがあるわけではないのだろうが、肌の色ごとに座る場所が分かれており、私たちもその暗黙のルールに従って座席を選んでいた。
バスの中は、アメリカ社会の縮図だったのかもしれない。
あれから40年以上が経った。今のグレイハウンドの車内は、いったいどんな様子なのだろうか。