「昔の名前では出られない」

　かつて、某教育委員会で２度にわたって情報教育担当の指導主事を務めたことがある。そのため、「ICTを活用した授業の専門家」として見られることが多い。

　しかし、最初に指導主事になったのは平成20年（2008年）のことで、その前年までは小学校の副校長を務めていた。つまり、すでに自分で授業をする立場ではなくなっていたのだ。

　また、学習用の端末に関して言うと、私が勤務していた自治体の場合、当時は各教室にインターネットに繋がったパソコンが１台ずつあるだけだった。

　厳密には、パソコン教室にも40台の端末があったのだが、全台同時にインターネットに接続すると回線がパンクしてしまうため、一部の熱心な教師を除けば、授業で積極的に活用されているとは言い難かった。

　この時期は、教師がパソコンや実物投影機（書画カメラ）の画像を大型ディスプレイやプロジェクターに映し出し、「大きく見せる」ことが活用の中心だったのだ。

　２度目に情報教育担当の指導主事になったのは、平成26年（2014年）だ。このときは、教育委員会が校務支援システムを導入した時期だったため、その活用に向けた教員研修の実施やシステムの不具合への対応に追われていた。

　また、首席指導主事という管理職的な立場でもあったので、他の部署との調整や議会対応にかなりの時間を費やしていたという内情もあった。

　もちろん、iPadをはじめとするタブレット端末が普及しつつあった時期だったので、学習でのICT活用にも取り組んではいた。しかし、予算の関係で１校当たりの配当台数が10台程度だったため、「３〜４人のグループに１台の端末」をどう活用するかという事例を示すのが精一杯だった。

　GIGAスクール構想による「１人１台端末」の活用が実現するのは、それから数年後のことになる。

　･･･今でもときどき、元「情報教育担当の指導主事」ということで、学校等から授業研究会の講師を依頼されることがあるが、指導主事時代の経験だけではとても対応できない。

　一応、最新の端末やアプリ、授業づくりなどについて情報収集をしたり、公開授業に足を運んだりはしているものの、自分自身で「１人１台端末」を活用して授業を行った経験がないということは、大きなハンデになっていると自覚している。

　とにかく、元「情報教育担当の指導主事」という「昔の名前では出られない」のである。

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　･･･ところで、今回のタイトルの元ネタは、小林旭の代表曲『昔の名前で出ています』である。この曲がヒットしたのは、今から48年前の昭和50年（1975年）のことだから、40代以下の方にはピンとこなかったかもしれない。

「昔の名前では出られない」と言いながら、昔の曲の名前を出してしまったことを最後にお詫びしたい。