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哲学的な良書 勝手に5選

 哲学は物事を深く考え本質を問う学問だ。どんなジャンルのトピックでも深く考えると難解に思えることもある。ここではサイズ的に手に取りやすく、文量的にも多くないもので、個人的に好きな良書を5冊ピックアップしてみた。

■『これは水です』 デヴィッド・フォスター・ウォレス 著/阿部重夫 訳


 前にも書いたが、僕はWebマガジン『bmr』の編集長にして知のサブカルの巨人、文化人である丸屋九兵衛さんを崇拝している。当然彼のtwitterやFacebookをフォローしている訳で、彼が紹介文を書いていた本『これは水です』が気になって気になってしょうがなくなり、本屋さんから連れて帰った。

 この本は著者デヴィッド・フォスター・ウォレスが、2005年にオハイオ州のケニオン カレッジで行った卒業生のためのスピーチをまとめた、とてもシンプルな書籍。

 読んでいる最中も読了後も、僕はこころがぎゅっと締め付けられるような感覚を味わい、泣きそうになった。本質的に僕はナイーヴなところがたくさんある人間で、テニスや音楽やリベラル・アーツに強い関心(≒愛)を持っていて、権力者や大きな組織や無駄なルールが大嫌いである。そしてウォレスもかなりの部分で僕に近い感覚を持った人間だったのであろうことが本の端々から伺えた。作者が自分の感覚に近いと感じた際に、人は動悸が早まり(クロックアップし)脳に情報がスルスルと入るフロー状態になる。
 
 本文はたった146頁しかないが、気になるフレーズが頁をめくる度に現れる。僕の脳裏に特に焼きついたのは何度も登場する「初期設定」(デフォルト)という言葉。我々人間が生まれながらに肉体・頭脳というハードウェアに入れられている「初期設定」。それを書き換えずして渡っていけるほど世の中は甘いものではないことを、彼はスピーチで聴き手であるこれから社会に出ようとする若者たちに語りかけている。
 リベラル・アーツを学んだ作家さん、とはいえ数学や科学についても相当詳しいことが文章からうかがい知れる。同じ年に行われたステーブ・ジョブズのスピーチよりも評価されていることもうなずける。ちなみに僕はステーブ・ジョブズも好きだけど、よりギークな相方スティーブ・ウォズニアックの方に関心がある。

 『50歳になるまでにはどうにかそれ(真理とは何か、どうやって見極めるのか)を身につけて、銃でじぶんの頭を打ち抜きたいと思わないようにすることなのです』と言っていたのにも関わらず鬱病との格闘の末46歳で自死を選択したポストモダン作家。優しい人ほど生きにくいのが今の時代。悲しい、寂しい、胸が締めつけられる。

 彼の代表作『Infinite Jest』は未翻訳で難解な小説で、インテリを気取った米国人の本棚には必ずあると言われる作品らしい。それほど英語が堪能でない僕にとっては高すぎるハードルとは思うのだが、いつの日か挑戦してみたいと思っている。
 
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■『対訳 技術の正体』 木田 元 著/マイケル・エメリック 訳


 こちらの本はあるイベントで頂いたもの。本を貰うということ、何年ぶりなのか思い出せないほど久しぶりでそれだけで嬉しくなった。

 この本を開くまで木田さんについては何も知らなかったが、哲学者である彼は2011.3.11に起きた東日本大震災と、チェルノブイリ以上とも言われる福島原発の事故に思いを寄せていた方。本が発行された翌年に亡くなったそうだが、哲学者でありながら「反哲学」ということを提唱されていたことから、とてもシニカルな方であることがうかがい知れる。
 「科学」とは「技術」とは何かについてまとめられた短編「技術の正体」と、その他3本の短編が左の頁に日本語文、右の頁に英語訳という形で綴られている。日本語文を読むだけなら、小一時間で読破できるボリュームだ。

 作品中で、最も気になったのは「世の中にはいろいろ不気味な事があるけれど、人間ほど不気味なものはない」というフレーズ。自分たちが暮らす自然環境でさえ破壊してしまう愚かな生物が人間。本作は現代人に対する戒めの書であるような気がした。

■『かもめのジョナサン(完成版)』 リチャード・バック 著/五木寛之 訳


 言わずとしれたベストセラー小説。2014年、作者が操縦する飛行機が墜落し重症を負ったことからそれまで封印していた第4章を追記したそうな。

 ストーリーはとてもシンプルで、速く飛ぶことにただならぬ熱意を持ち、全てを賭けるカモメのジョナサンと、彼に接するカモメたちのお話だ。
 
 カモメの世界のことに詳しくはないが、我々人間の世界においては突出した天才がフォロワーや二次製作者を産み出して、率先垂範して集団を引っ張っていく。ジョナサンの試みも正にそれ。一つのことに命をかけるエクストリーム系な生き方は、人であろうが無かろうが多くのフォロワーを魅了する。
 
 ジョナサンがどうなったのか、ジョナサンが居なくなって集団はどうなったのか、4章の是非については意見が別れるようだが、とりあえず読んでみて欲しい作品だ。

■『君たちはどう生きるか』 吉野源三郎 著


 こちらも昨年から大人気の児童小説。社会が全体的に迷走しているこの時代、こういったタイトルの本は読んでおくべきだろうと思い購入した。

 主人公は「コペルくん」。このニックネームは彼が「人間って分子みたいだ」と言ったことをおじさんがコペルニクス的な発想転換だね、ってことでつけられたもの。
 本作は10のショートストーリーで構成されていて、タイトルにある「どう生きるか」についてはあまり語られていない。個人的には小説ってそういうものだと思うのだ。主題についての対話をひたすら書き綴るものではなく、様々な逸話や主題に触れそうな距離感のストーリー、アイロニーを散りばめて、読了後に読者のこころに小さなトゲを残す作品。そんな作品が僕の好物だ。本作はまさしくそんな作品だった。

 ちなみに「コペルニクス的転回」が困難なのは人間誰でも自分が世界の中心に居ると思いたい「願望」を持っているからで、自分の視座が『正』だと思いがちだからではないだろうか。この辺りの発想は、ノーベル文学賞に輝いたカズオイシグロの『日の名残り』にも通じるものがあると僕は思った。
 

 子どもには中学生になったら読んでほしい1冊だ。 

■『思考の整理学』外山滋比古 著


 古典。買ったのは数年前だったと思うが、仕事を進める上でもの凄く参考になるので職場のデスクに常備している。

 仕事とは単純な作業ではなく、自分に与えられた裁量の範囲で創意工夫を重ねて結果を出すものだ。仕事の中で創意工夫をできるモノを3つに分けるなら「働き方」「考え方」「人間関係」に分類することができる。
 この本は「考え方」つまり「思考」をどのように整理するかについて外山先生がコツコツ書かれたものをまとめたエッセイ集のようなもの。特に僕が好きなのは「アイディアを寝かせておく」という考え方だ。
   
 noteを書くようになる少し前から、『考える』ことが習慣化し、ベッドに入って数分間は何か気になる課題やトピックが、頭の中をぐるぐる回遊している内に眠りに就き、朝目覚めると、「あ、今日はこれを書こうかな」みたいなことが多くなった。

 頭脳に対する入力情報が少ない場合であっても、頭の中で別の情報と結びつけたり融合したりすることにより、頭脳は入力以上の情報量を持つ出力することも可能なのだ。

 この他にも「積ん読」だとか、「情報のメタ化」だとか、「セレンディピティ」だとか、今日では当たり前のように使っている用語についても、短いエッセイとしてまとまっていて忘れた頃に眺めたくなる本だ。学生の内に読んでおけば良かった。

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 電子書籍がだいぶ普及してきたと思うが、読書はやっぱり本が良い。積んでる本を少なくするよう頑張ろうと思う。 


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鰯 十三
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