出会いがあれば、別れもある
半年間だけ、海が近い街に住んでいたことがあった。海がない場所で育った私は、幼い頃から海に憧れを持っていて、大学を卒業した後、そこへと移り住んだ。
やりたいこともなく、就職をしないという選択をした私は、とある宿で住み込みをしながら働き、その街で、決して贅沢とは言えなかったが貯金を切り崩しながら生活していた。
月日は流れ、そこを離れなくてはいけない日がやってきた。その日の前日、私はいつも通り海へ向かい、海を眺めた後、海岸沿いを自転車で走り、海の見えるカフェへと向かった。
そのカフェで頼んだのも、いつもと同じアイスのカフェオレとお茶菓子。それを飲みながら、ふと
このままでいいんじゃないか。
と思った。
憧れの海の見える街で暮らし、毎日のように海へ向かい、行きつけのカフェがあり、この街では知り合いも増えた。街を歩けば、挨拶をしてくれる人がいて、話しかけてくれる人もいる。ここでの暮らしに何の不満があるのだろうか。
幸せを、いつも私は自分から手放してしまう。
カフェオレを飲み終わるまで、そんな考えが頭の中をぐるぐると回り、グラスの周りの雫がぽたぽたと私の腕をつたいながら机へと落ちた。
いつも通り、会計を済ませ、また海へと向かう。悩みごとを考えるのはいつも決まって、浜辺だった。
海でサーフィンをする人、浜辺で犬を散歩させる人、浜辺で寝転ぶ観光客、肌を焼く人たち。いつも通りの浜辺。
海を眺めていると、自分の悩みがちっぽけな気がしてくる。
海をぼんやりと眺めた後、自転車にまたがり、海を背に家へと向かう。私の頭の中で考えはきまっていた。
私は明日、この街を離れる。
この街を離れ、また新しい街で新しい生活がきっとある。私はそこでまた、新しい出会いを探さなくてはいけない。そこでまた、幸せを築かなくてはいけない。
出会いと別れが繰り返される。それらは、私の人生を構築していく。これから先、別れは何度もやってくる。でも、その度に、新しい出会いに胸を弾ませ、寂しい気持ちを抱えながらもわくわくしながら前へ前へと歩いて行きたい。
それが人生なんだと、別れが来るたびに思う。
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