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『銃・病原菌・鉄』第三章(インカ帝国の滅亡)を解説します

誰もが知ってる書籍「銃・病原菌・鉄」の精読シリーズの第一回目。最初なのに三章から始まるのもおかしな話ですが、残りは少しずつ記事にしていきます。一章の「人類1.3万年の歴史」はボリュームが多すぎるのでそれだけで人類進化シリーズにし大幅加筆修正を施した記事を書いていく予定です(一部公開済)。ちなみに日本語版は読んだことないから違いがあっても分からないです。あしからず。

原著のタイトル

03: COLLISION AT CAJAMARCA: カハマルカでの激突
Why the Inca emperor Atahuallpa did not capture King Charles I of Spain
どうしてインカ帝国の王アタワルパがスペイン帝国の王様を捕らえるという結果にならなかったのだろうか?

あらすじ

第三章は、この本のカギとなるスペインによるインカ帝国の侵略です。事件が起こったのは1532年、現在のペルーにあるカハマルカという場所。200人ほどのピサロ軍(スペイン)が8万を超える軍勢を誇っていたインカ帝国を簡単に倒してしまうという例の事件です。この後も負け続けたインカ帝国は諸々の事情が重なりほぼ滅亡してしまいました。どうしてこんなことが可能だったのか?その逆は何故おこりえなかったのか?ということが議論されています。そして、キーポイントは本のタイトルにもある「銃、病原菌、鉄」と「」です。

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前知識

舞台は15世紀のスペイン、大航海時代の少し前にさかのぼります。いつの時代も楽して儲けたいと考えている人間の中のクズである人間。この時代における”金のなる木”は仮想通貨ではなくインドのほうからやってくる胡椒やらの香辛料貿易でした。それまでの輸入経路は下図にあるように紅海(アフリカとサウジアラビアの間)かペルシャ湾(今のイランの下)を経由していました。この貿易を仲介していたのがイスラム商人とベネチア商人です。
そこにやってきたのがスペインとポルトガル。国内にいるイスラム勢力との闘いがやっと終了しようかという彼らにとって、この間に割って入ることは地理的にも難しく(地中海の果てにあるから)新たな方法を考える必要がありました。ポルトガルはエンリケ航海王子の先見の明のおかげもあり、存在しないと思われていた南アフリカ大陸経由でインドに到達し新規参入に成功しました。出遅れたスペインに残された道はひとつ・・西へ。
ということでコロンブスが西インド諸島を発見し、その先には新世界、じゃなかった新大陸があることを発見しました。そして、そこにはなんとあふれんばかりの黄金が存在していることがわかりました。
この辺がワンピースの着想になってるんじゃないかって勝手に思ってます。私の認識では、ワンピースはヤンキー友情漫画ではなく歴史漫画です。

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本題

そして彼らは伝説の黄金郷(エルドラド)を求めてスペインを旅立ちました。
「オレは黄金を手に入れる~!」と物欲の塊のピサロとその兄弟、さらには265名の兵士と65頭の馬とおそらく奴隷たくさんご一行様。南米大陸に上陸し苦労の末にカハマルカにたどり着いたピサロを含めた200名ほどの兵士と20頭ほどの馬と騎兵隊たち。
明日はいよいよ交渉の日。最初はいつものようにキリスト教の布教を試みる貞のスペイン軍。それに対する首長さん「この忌まわしきキリスト教者め!でていけ!」と言って聖書を地面に叩きつけたとか叩きつけなかったとか。それをうけたスペイン軍は「やりやがったな~このやろう!Santiago(戦闘だ) ! ニヤリ。出てこい野郎ども!」
開戦の合図とばかりに、広場の周辺に隠れていたスペイン軍が銃を放ちトランペットをならし、馬の蹄がなり響きます。もうこの時点で恐れおののいてしまったインカ帝国軍。「やべ~こいつらゴロゴロの実の能力者(雷を操る)だ・・しかも馬も操ってるし(アルパカよりすげ~よ)・・もう無理」ってなってしまいました。地上戦で戦っても彼らが身に着ける甲冑を打ち破る武器を持たず、また彼らが振りかざす鉄の剣を守る防具もなく、ただただ殺戮が続くだけ。レベル99のドラクエ状態です。あっという間に勝利してしまったスペイン軍。王様を捕虜にし莫大な金20tほどを身代金として奪い、さらに謀反の疑いがあるとして王様も殺してしまう。。その後も虐殺は続き、ついにインカ帝国は滅亡してしまいます。

こちらの動画(英語)で会議に向かう双方の様子がよく分かります。

その後に、以下の解説動画(英語)をみるとより分かりやすいです。

ここまで来ると本を読む意味すらなくなってくる。なぜならこれらの動画のほうが出来がいいから・・

なんでこんなに油断してたんだろう? (個人的見解を含む)

その説明の理由が二番目の動画で少し説明されてますが、まぁなめてたんじゃないですかね?200人にも満たない外人の力を。これ十字軍のときと同じですよ。知らない国からきた小汚い人間どもが、まさか我らがインカ帝国を倒そうと考えているなどとはユメユメ思わなかったんじゃないかしら。想像力の欠如といえばそれまでですが、黒船をみたことのない江戸時代の庶民が黒船みたいな戦艦を想像するのは難しいですよね。銃持ってるじゃないか!とか思うかもしれませんが、そもそも鉄が何かも分からない文化レベルで銃が危険だと思えるわけがないでしょう。こちらの記事にも書きましたがUnknown Unknowns (存在することすら知らない)ですよ。
なんなら、この交渉の前に身内争いに勝利した我々の力を知って恭順の意を示しにでもきたんだろう、と思ってたんじゃないかしら。彼らの考えでは一人の人間の戦力というのは殴る蹴るくらいしかないから、人数で勝りさえずれば結果は明らかだと考えていたのではないでしょうか。こんなことを上の踊ってる動画を見ながら考えてました。だから数で威圧すれば彼らが歯向かうことはない!と考えていたというのが私の個人的見解です(事実関係はよくわからないので後日勉強して追記します)。
そんな彼らにドラえもん級の武器が目の前にあらわれちゃうわけです!
♪♬♪~銃と鉄製の武器(と防具)〜です。

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何故こんなに戦闘力の差が生じてしまったのか?

200人に届かないピサロ軍が、8万の軍勢(その場にきたのは7000人ほど)になぜ勝てたのか?これこそが、この本のキラー・クエスチョンでもある文明の力になります。銃と鉄器の発明馬の操縦術、インカ帝国を滅亡へ導いた真の原因でもある天然痘、がここに勢ぞろいします(天然痘の話はボリュームがありすぎるのでまた別の機会に書きます)。
あらすじに書いたようにこの武力の差はいかんともしがたく、鉄の鎧を打ち破る武器はなく、また彼らが振りかざす鉄の剣を守る防具もなく、ただただ殺戮が続くだけになります。

「そんなに強いなんて知らなかったんだよ~ずるいよドラえもん!」
と、すっかりのび太くん状態になってしまったインカ帝国軍。。

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その後、敗戦を繰り返し、鉄の剣と鉄の鎧を手に入れても、結局スペイン軍のお古だったりするから勝てない。そして天然痘に感染してバタバタ人が死ぬ・・という地獄が繰り返されインカ帝国は滅亡してしまいました。

この戦いが示すように直接的な敗因はタイトルにある「銃・病原菌・鉄」になります。でも、それを生み出した土台はどのようなものだったのか?ということを調べるために次の章からは再びタイムマシーンに乗って農業の起源にまでさかのぼります。
つづく。



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