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あのモデルさんに似ていますか?|土偶のおはなし

祈りの道具として知られる縄文時代の土偶
立派な彫刻のようなヴィーナスがいるかと思えば、小さな手作り感いっぱいの素朴でかわいい土偶まで、その大きさや造形はさまざま。

では、それは作り手が思いのままに作っているのかと言えば、そうではないのです。
それぞれの土偶は、その時代ごとにその地域で決まった形があり、その形が連想ゲームのように伝わり、大きさや形が少しづつ変わっていく中で時には他の要素も加わって、バラエティーに富んだ土偶が生まれていったのです。


▮モデル土偶とコピー土偶

土偶の大きさを大雑把に見ると、大型(30㎝前後)、中型(15㎝前後)、それより小さい小型の3つに分けられるようです。

大型の土偶はたくさんの集落から人々が集まって行われる祭祀などで、多くの人の目を引くことを意識して作られました。
中型の土偶は小さな集落などの小さな単位で、小型の土偶は家族や個人でと、その使われた方に応じた大きさであると考えられます。

大型の土偶はその大きさだけでなく、中小サイズの土偶をしのぐ造形でも注目されます。
それは祭祀などで神秘的な意味を持つために、神々しい造形であることが求められたことにあるようです。恐らく土偶作りの得意な人が、多くの手間暇をかけて作りあげたものと思われます。

こうして作られた素晴らしい大型の土偶をお手本にして、中型や小型の土偶が作られることが多かったようです。
このお手本になる土偶はモデル土偶、真似して作られたものはコピー土偶と呼ばれます。


▮特別な一級品のモデル土偶

お手本となるモデル土偶の一例として、
国宝『縄文のビーナス』を見てみましょう。
高さは27㎝、1986年に長野県茅野ちの棚畑たなばたけ遺跡からほぼ当時の姿のまま見つかりました。

ハート形の顔、髪を大きく結った表現と思われる四角い頭、お腹の大きな妊婦さんのような女性の身体、全身はつるつるに磨かれ、キラキラと輝く地肌を持っています。

尖石縄文考古館蔵

この完璧な作り…多くの人々の祈りの道具である、まさにヴィーナスと言える特別な存在の土偶なのです。

この土偶は墓の中から見つかりました。一般的に土偶は竪穴住居跡や広場跡などから見つかることを考えると、墓から見つかるというだけで特別な土偶であることが分かります。一緒に見つかった琥珀の装飾品などと共に死者の副葬品であったと思われます。墓はこの集落を司るシャーマンの様な人物のものという見方があるようです。

そして特別な土偶であることは、科学的にも証明されています。
発見後にX線写真を撮った結果、〝単に粘土を繋ぎ合わせて作った〟一般的な土偶とは違う作り方をしていることがわかりました。

その方法は、先ず全体の骨組みを作り、そこに頭や顔など各部分ごとに丁寧に造作して、さらに全体の表面をキラキラした雲母(鉱物)を練り込んだ粘土で覆った、というもの。

この作り方を見ると、製作者には最初から明確なビーナス像があり、きちんと計画的に作業を進めていたことが分かるようです。


▮似て非なるもの⁉コピー土偶たち

同じ遺跡からは、僅か5㎝ほどの『縄文のビーナス』にそっくりな頭部も見つかっています。
顔だけをよく見てみると…縄文のビーナスより平坦な作りで、肌も粗いようです。磨かれた跡やキラキラした感じはありません。
最初から『縄文のビーナス』と全く同じように作ろうとは思われていなかったと思われます。


『縄文のビーナス』の誕生の地から東南へ約15㎞にある山梨県北杜市の土偶です。おおよそのシルエットは似ているようですが、かなり大雑把な作りと言うか…見よう見まねで作ったように思える造形です。
人づてに「こんな感じ」と伝わって作ったのかもしれませんね。

宮の前B遺跡・北杜市考古資料館蔵


さらに約50~60㎞離れ場所にも、モデル土偶を真似て作られてた思われるコピー土偶たちがいます。

随分とシルエットも変わってきたようです。作り手の個性も盛り込まれるようになったのかもしれませんね。

桂野遺跡・春日居郷土館蔵


こちらは顔に入れ墨のようなものが入っています。他の地域から伝わってきた土偶情報も合わさって独自の変化を遂げているようです。

釈迦堂遺跡・釈迦堂遺跡博物館蔵


このようにモデル土偶をお手本にして、周辺各地でコピー土偶と呼ばれる土偶たちが作られていきました。
それらはモデル土偶とは少し違った土偶になってしまうことも多かったようです。

そうであっても『縄文のビーナス』が一番大切にしている、身ごもった女性のビーナスであるということ、これだけはしっかりと伝えられているようです。
安産や命を繋ぐ祈りが、この時この地域の人々にとって最も大切であったことを表しているようです。



あの人のようになりたい、同じものが欲しい…
いつの時代も、憧れを抱く人間の心理は同じではないでしょうか。

コピー土偶と言っても単に真似したのではなく、人々の切なる思いが込められている土偶たち。
それだからこそコピー土偶であっても、人々の温もりや尊さを感じるのかもしれませんね。


*参考図書
土偶のリアル  譽田亜紀子 山川出版社
特別企画土偶展 長野県立歴史館 信毎書籍出版センター
縄文土偶ガイドブック  三上徹也 新泉社
 

最後までお読みくださり有難うございました☆彡

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