⑤揺さぶられ続けた4月
元夫は、私が乳がんだったと告げた日から毎日励ましのLINEをくれた。
「大丈夫、きっと良くなるから」
「君には手術した後も長い人生があるのだから、仕事は辞めちゃダメだ」
多分こんなに毎日やりとりしたのは結婚前に付き合っていた以来なんじゃないか?(笑)
まあその頃はLINEなんてないし、もっぱら電話だったけれど。
「いい病院を見つけたからセカンドオピニオンをお願いしよう」
そう連絡が来たのはがん告白からわずか2日後だった。
通っていた病院へ連絡し、セカンドオピニオンの話をする。
なんだかおじいちゃん先生に申し訳なくて謝った。
「いいんだよ、そういうシステムがあるんだから使っても」
すぐに紹介状を書いてくれた。
「ここでの手術は、先生がしてくださるんですか?」
「そう、僕がする。明日も手術があるんだけどね、コロナの件があるからまず肺の検査からしなきゃならないんだよ。」
その後、私が通っていた病院でもコロナ患者が出て話題になってしまった。
手術をした患者さんは大丈夫だろうか。
不安だろうな。
自分の病気だけでも大変なのに、さらに不安材料が増えるなんて。
そう、とにかく4月は不安との戦いだった。
がんについてもそうだけど、もしコロナウイルスにかかったら?
乳がん罹患者だった芸能人がコロナにかかり亡くなるニュースが世間を騒がせた。
私は大丈夫なの?
手術は受ける、でもその前にコロナにかかってしまったら?
毎日部屋から青い空をぼんやり見ている生活に突入。
買い物も極力減らし、近所にしか出歩かなくなった。
てか、もう隠居じゃんこれ。
私、何してんだろ。
これから、どうなるんだろ。
「大丈夫、きっと良くなる」
「怖い怖い怖い」
「もしもうコロナにかかっていたら」
「大丈夫大丈夫大丈夫」
毎日毎日、上がったり下がったり。
心はめちゃくちゃ忙しかった。
仕事は休職願を出した。
本当は手術ギリギリまでしたかったんだけど、元夫の「コロナにかからないことが最優先!」という言葉で休むことにした。
同僚たちには病名を明かした。
自分のことって、結構割となんでも話しちゃうタイプ。
同僚の一人がLINEをくれた。
彼女のお母さんは昨年乳がんで全摘の手術をしたらしい。
知らなかった。
「母が使っていて良かったって言ってた下着あるけど使う?」
なんて嬉しいお申し出!!
そうか、下着とか用意するんだ。
この頃の私はまだまだ無知で何も知らなかったな。
数日後、彼女から下着とがんに関する本を貸していただいた。
離れて、ほんの少しだけ、おしゃべり。
会社は特にコロナ対策などしていないらしく、不安だと言っていた。
「まこさんもこんな時期に大変よね、去年だったら良かったのにね」
去年だったら良かった?
いいわけないじゃん、乳がんになんて去年だってかかりたくなかったよ。
分かってる、ただの言葉のあやだ。
分かってる、わかってるけど、モヤモヤした。
下着をいただいたり本を貸してくれたり、優しくしてくれているのに。
私、嫌な奴だ。
窓から見える空が青いことだけが救いの日々。