「雪の断章」佐々木 丸美著(1975年)
この本は「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ」でセドリ屋の志田が古本屋で見つけては知人に送っていた本の1冊でとても気になったので手に取った次第。
養い先の家で惨い仕打ちを受け家を飛び出した孤児の飛鳥は、青年・祐也に助けられ彼の元で育てられる。育ての親である祐也への愛を、飛鳥はひそかに募らせていく。そしてある日、殺人事件が発生したことから飛鳥と祐也の運命は大きく動き出す――。情感溢れる筆致で少女の想いをみずみずしく描き 、北海道を中心に一大ブームを巻き起こした珠玉の名作。
殺人事件が起こるもののミステリー要素はなく、孤児としてこの世に生を受けた一人の少女が周りの愛に支えながらもうまく頼ることができず、一人殻に閉じこもることによってより事態がこじれていく様が描かれたと感じた。
自己啓発本は気になったところをメモしながら読むのだが、小説はしていない。けれど、この本は心にグサッと矢が刺さるような言葉が多くていくつも線を引いた(kindle)ので備忘録的にnoteにまとめようと思う。
・ 少女が四月の精に好かれたのは、動物や小鳥たちを愛していたからだ。自分が叔母さん達にいじめられているのに森の仲間たちには親切心や優しさを注いでいたのだ。いじわるされてもなお心に余裕があったのだろうか。真冬に咲くわけのないマツユキ草を摘めと言われても怒らずにマツユキ草を探したのか。すねて森をさまよったのではなく一生懸命に探したのか。ない物を無心に信じて探すけなげさが神に届いたのだろうか。神はそうした無欲なひたむきさのみに力を貸すのだろうか。
・自分の強さと自分の愛は、いつかは自分の幸福へ導くものなのかもしれない。
・忘れることはあっても消すことは不可能なのか。いじめられたから恨んでいるのではないのだ。
・人を傷つけることに平然としている生き方を許したくはないのだ。
・しかし、私は本岡家と再開した。いや本岡家が私を追ってきたのだ。離れたと信じて安心していたのに実はいやらしい透明な糸でつながれていたのだ。
・人間の心は時の運行に準じて動くのだ。決して個人ものだけではない。心というものは人間の単一の所有ではない。あくまで大自然のはいかに置かれているものなのだ。
・ごめんなさいね、突然いやなお話をしてしまって。ただ、あの人さえいなければ、という気持ちについて私自身が悩んできたものですから。
・一日に一時間でいいわ。疲れたり眠気がさしたりしないきれいな元気な一時間が欲しい。
・それこそ人の心の奥には言葉にならない感情がたくさん生きているのを悟るべきだし順子流の定規では測りきれないっとことよ。
・辛かったことは人にふれて歩くものではないし行ってみても取り返せることではない。
・両親がそろっていることは幸福の条件ではあるが幸福そのもではないからた。
・飛鳥も順ちゃんも本岡奈津子もみんな同じだ。時期がちがうか形が異なるかであって悲しみや喜びは公平に順番が回ってくるものなのだ。
・不幸と幸福は公平に順番が回って来る
・裏切りがあるから信じ、崩れるから摘むのでしょう、溶けるから降るように。
・どうにもならないから話すの。見通しがあるなら黙っていても道は開けるでしょう。素直に話し合って進むか挽くかを決めるべきよ。勝手に事態を処理するのは軽率だしかえってこんがらかしまう。
・人間てやつは一つの場所にとどまってはいられないのだ。考えが変わってゆくように生活も移り変わり、出逢ったり別れたりの重みが人の生活だ。人は流れるものだ。
・自分の幸せは他人に引き寄せられるのではなく自らの判断で赴かなくてはいけないのだ。
・失っても別のもので埋められるものとそうでないものとの区別もしなくてはなりません。
・愛したことによって失うものの方が多いのは私のこれから生きる方向に何を示すものなのか。
・お前はどこかで間違いをしたのだ。それに気が付きながら無理に進もうとしているから満たされないのだ。
・こわがらないで言ってごらん、どうしてもお前の方から言わなくてはならないのだ。↑↑これはビブリア古書堂の事件手帖Ⅱでも引用されていて、双方の物語で重要な場面に登場する一文
・偽善者と決めつけられたときからお前に近づけなくなったのだ
・育てられた恩のために自分を封じ込めていた私。育てたことが負担となって遠のいていた祐也さん。さらに偽善者ではないことを証明しなくてはならなかった心の内はどんなだっただろう。
・それで史郎さんはなんて言ったの、飛鳥に、気持ちよく許してくれた?「うん。大馬鹿野郎、最初からそう言えって叱られちゃった。」
以上です。志田がどうしてこの本を色々な人に配っていたのかその気持ちはわかりかねるけれど、強情な主人公とそれを取り巻く数奇な環境の中で紡ぎだされた言葉は私の胸に深く響いた。
箇条書きで示されてもなんのこっちゃって感じですね笑。月並みな言葉だけれど、気になった方はぜひお手に取っていただけると良いかと思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。