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ボナパルト家を取り巻く女性たち - オルタンス編《1》我慢の子と破れた靴
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オルタンス・ド・ボアルネは、ナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌの娘。
ジョゼフィーヌと最初の夫との間に産まれた子なので、ナポレオンから見ると義理の娘にあたります。
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オルタンスとは、セイヨウアジサイを意味するフランスの女性名。
土壌の酸性度によって色を変えるアジサイの如く、周囲の環境に振り回された人生を送りました。
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今回は、そんな彼女の一生を見ていくシリーズです。
母ジョゼフィーヌに比べると影が薄く「誰それ?」という感じだと思うので、ナポレオンの栄枯盛衰ぶりや当時のヨーロッパ情勢も織り交ぜながら書いていければと思います。
(全11話になる予定です)
それでは早速いってみましょう。
◇
オルタンス・ド・ボアルネは、1783年4月10日 パリで産まれました。
家族は、裕福な貴族である父アレクサンドルと、明るく社交的な母ジョゼフィーヌ、そして2つ違いの兄ウジェーヌがいました。
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一見どこにでもいそうな平和な家族。
しかし、オルタンスが誕生した頃 両親の仲は既に破綻していたのです。
父は愛人を作り家を空けがちでした。
そしてオルタンスの誕生を喜ぶどころか
「産まれてくるのが早すぎる。俺との子じゃないだろう」
とオルタンス母を相手に訴えを起こします。
◇
母ジョゼフィーヌは、そんな夫との生活に限界を感じ、オルタンスと兄を連れて修道院に逃げ込みました。
そこは 自分達と同じように困難な結婚生活から避難して来た 貴族女性たちのシェルターになっており、オルタンスは産まれて間も無く こうしたご婦人方との共同生活を余儀なくされたのでした。
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パリのパンテモン修道院
Thesupermat CC BY-SA 3.0 Wikimedia Commons
◇
オルタンスが2歳になる少し前、両親は離婚。
父から年金を貰えることになり、オルタンスと兄は母と共に修道院を出ます。
5歳まではパリ近郊のフォンテーヌブローに住み、そのあと母の実家があるマルティニーク島へ移りました。
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TUBS CC BY-SA 3.0 de
Wikimedia Commons
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◇
元々 社交的で華やかなことが大好きな母ジョゼフィーヌは、何処へ行っても貴族や軍人の愛人を作って遊んでいました。
オルタンスは母の乳母などに面倒を見てもらっていましたが、母譲りの社交性があり、大人に好かれる性格だったそう。
ただ常によその大人に囲まれた生活ということもあってか、周りの顔色を伺い 自分を押し殺すという子供っぽくない面がありました。
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◇
そんなオルタンスが6歳の時、フランス革命が起こります。
オルタンス母娘が住んでいたマルティニーク島でも黒人奴隷が自由を求めて蜂起、島は火の海となりました。
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母ジョゼフィーヌはこの状況に危機感を感じ、オルタンスを連れてフランス本土に戻るべく船に飛び乗ったのです。
◇
ここで、この船旅の最中に起きた、オルタンスの性格を象徴するエピソードをご紹介しましょう。
明るく活発なオルタンスは、船乗り達からとても可愛がられました。
彼女は船乗りたちを喜ばせるため、連日甲板に出ては島で覚えた黒人の歌とダンスを披露します。
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ところがある日、ダンスで酷使された靴が破れてしまいました。
オルタンスは、貧しい母が替えの靴など持っておらず、フランス本土に到着するにはまだまだ時間が掛かることを知っていました。
靴が破れたなんて言ったら、もう甲板には出してもらえない…そう思ったオルタンスは、靴のことを黙っていました。
しかしある日、足から血を流しているのを母に見つかってしまいます。
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彼女は「何でもないの」と言い張りますが、そんな訳はありません。
親子で途方に暮れて泣いていると、1人の船乗りが現れてどうしたのかと尋ねました。
オルタンスは靴が破れてしまったことを話します。
するとその船乗りは、船に古い靴がありますからそれを使って修理すればいいですよと言うが早いが、トランクの中にあったお古の靴を持ってきました。
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船乗りと母ジョゼフィーヌで協力して靴を直し、オルタンスは再び活発なダンスを披露できるようになったそうです。
◇
このお話は、ここで一件落着。
しかしこのオルタンスの「空気を読んで自分を出せない性格」が のちに彼女自身を大いに苦しめることになるとは、当時のオルタンスは知る由もないのでした…。
◇
さて1790年12月、船は南フランスのトゥーロンに到着。
オルタンス母娘は、ここからパリへ向かうのでした。
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続きます。
次回、パリに戻ったオルタンス母娘。
母は前途洋々の軍人ナポレオンと再婚、
思春期のオルタンスは この事をどう思っていたのでしょう…?
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《補足》
今回のエピソードに出てくるものとは違うのですが、オルタンスの母ジョゼフィーヌが履いていたとされる靴です。
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オルタンスの靴の修理は、船乗りが靴をカットして布を切り出し、ジョゼフィーヌがそれを縫い合わせて行ったそうですから、実際の靴もこのような柔らかい布で作られたものだったと推測されます。
参考
Mrs Daffodil Digresses
《Josephine and the Old Shoes: 1789》
ナポレオンとジョゼフィーヌ (中公文庫)