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ボナパルト家を取り巻く女性たち - ジョゼフィーヌ編《5》ナポレオンとの出会い

◆これまでのお話

フランス植民地の島にある貧しい貴族の家に生まれたジョゼフィーヌ。

金銭の為に裕福な貴族の家に嫁入りし、パリに渡ります。

しかし夫とはウマが合わず、一男一女を抱えて離婚。

その後フランス革命が起こり、夫は恐怖政治の波にのまれてギロチンの犠牲となります。

ジョゼフィーヌも反逆の疑いで投獄されますが、クーデターによって権力者が倒され、ギロチンを免れます。

しかし(元)夫を失い、生活費や子供達の養育費の当てが無くなってしまいました。

困ったジョゼフィーヌは、持ち前の社交術を活かして時の権力者バラスの愛人に収まります。


しかしバラスはジョゼフィーヌより10歳も若い美貌の女性を新たに愛人に迎え、ジョゼフィーヌを邪魔に思うようになります。

さてどうしたものかと悩んだバラスでしたが、とある男が脳裏に浮かびました。

「そうだ、あいつに押しつけてやればいい。」

その男とは――。

《これまでの話》

第1話: 出生地の謎と最初の結婚
第2話: 泥沼離婚、修道院へ
第3話: 革命、そして投獄
第4話: 新たな愛人バラス

◆ナポレオンに出会う

男の名は、ナポレオン・ボナパルト。
バラスの部下で、卓越した軍事センスでめきめきと軍隊の中で出世していました。

この頃のナポレオン(23歳)




(ナポレオンの活躍ぶりは、こちらにも書いてます)


当初ジョゼフィーヌにとってナポレオンとは、愛人の部下の1人で、サロンで見かけたことがあるな…位の印象でした。

しかし、実は彼女がバラスと良い仲になって間もなく、ナポレオンとお近づきになる決定的な出来事があったのです。


1795年秋、パリで一時勢力を弱めていた王党派が再び盛り返し、クーデターを起こします。

ヴァンデミエールの反乱(1795年)


この騒ぎはナポレオンの多大なる活躍によって見事鎮圧されました。

しかしその後 更なる王党派(反革命派)の蜂起を防ぐ目的で、パリ市中にある個人の武器が政府に没収される事となりました。
(フランス版刀狩りと言った所でしょうか)

そしてジョゼフィーヌの家にも刀狩りの係官がやってきます。

係官は家にあったサーベルを寄越せと迫りますが、これに反抗したのが当時14歳だった長男ウジェーヌでした。

彼は勇気を持って
「これは父の形見だから渡すわけにはいかない」
と断固反対したのです。(いい子!)

(イメージ)

係官はこの事を司令官ナポレオンに報告。
ナポレオンは少年の勇気にいたく感動し、サーベルはそのままウジェーヌの手元に残ったのでした。

後日ジョゼフィーヌはこの事で感謝の意を伝えようと、ナポレオンの元を訪れます。
(まあ3割くらい下心があったかもしれませんが)

これが、ジョゼフィーヌとナポレオンが親しくなったきっかけでした。

ところで、実はナポレオンはこれより前に、テレーズ・カバリュスという女性に好意を抱いていました。(前回の話のラストでチラッと出てきた女性です)

彼女はジョゼフィーヌの親友で、冒頭で述べたバラスの若い愛人でした。
(バラスは、ジョゼフィーヌとカバリュスの二股をかけていたどころか、愛人をぞろぞろ連れて社交界に顔を出すような男でした)

左: バラス / 右: テレーズ・カバリュス

当時はまだ「バラスの部下」という立場の 一介の軍人に過ぎず、ボロボロの軍服を身につけていたナポレオン。
カバリュスはそんな彼に上等な服を与えてやったのです。

花の都に出てきたばかりのナポレオンは、美しい女性に親切にされて舞い上がっちゃったのでしょうか。

そしてカバリュスに自分の気持ちを伝えるも、
「もっといい人がいるわよ」
とふられてしまったそう。

そこへ現れたのがジョゼフィーヌでした。

バラスにはすっかり飽きられていた彼女でしたが、ナポレオンは「ボアルネ子爵夫人」(ジョゼフィーヌのこと。亡き夫の身分と名前を名乗っていました)の気品ある立ち振る舞いに衝撃を受け、夢中になるのです。

◆ナポレオンの決意

まず驚いたのが、彼女が住む優雅な邸宅。

刀狩りの件のお礼にナポレオンを訪れたジョゼフィーヌに
「ぜひ拙宅にもお越し下さいませ」
とか何とか言われて、彼は まんまと数日後彼女の元を訪れます。

↓ジョゼフィーヌ宅の水彩画↓

洗練された邸宅に、豪華な調度品と召使い。
田舎から出てきたしがない軍人の自分と比べて、何と優雅な生活をしているのだろう…!

そんな家の女主人が、甘い声やしなやかな所作で自分を誘惑しようとしている…!

そういった訳で、ナポレオンはあっという間にジョゼフィーヌの手に落ちます。

実はナポレオン、以前は自分の母くらいの歳の女性に求婚した経験がある年上好き

また、元イタリア領だったコルシカ島訛りのフランス語をからかわれたトラウマから「極めてフランス的な血筋の女性」と結婚したい、という思いもありました。

ナポレオン、何か色々勘違いしている気がしますね。

彼が見たジョゼフィーヌの邸宅は、彼女の生計では到底賄えない価格の、しかも借家。
(愛人バラスが援助していたという噂です)

また彼女の生まれも、フランスから遠く離れたカリブ海に浮かぶ植民地の島。
どこが極めてフランス的なのか…?

ですが彼の決心は固く、上司のバラスに
「ぼくはボアルネさんと結婚しますッ!!」
と告げるのでした。 

実はナポレオンにはマルセイユに置いてきた婚約者がいたのですが、その約束は 反故ほごにしてしまいました。

そうまでして一緒になりたかったのですね…

ナポレオンにふられた元婚約者、
デジレ・クラリー。
この後スウェーデン=ノルウェー連合王国の王妃となります。


前回の記事の最後にも載せた風刺画ですが、バラスの前で裸踊りをするジョゼフィーヌとカバリュス(共にバラスの愛人)、それを覗き込むナポレオン。

軍隊の中で頭角を現していたナポレオンが、上司であるバラスの女を横取りしようと様子を伺っている所を描いていたのです。

さて冒頭にも書いたとおり、バラスは若くて美貌のカバリュスを手に入れた事で
「ジョゼフィーヌと別れたいなあ」
と思っていました。

そこへナポレオンの結婚宣言。

バラスにとっては正に渡に船です。
この結婚を承諾したばかりか、2人の結婚式の証人まで引き受けたのでした。

◆渋々の結婚

一方のジョゼフィーヌはと言うと…

全くその気がありませんでした。

ナポレオンは彼女より6つも下ですし、百戦錬磨の彼女の相手としては朴訥ぼくとつとし過ぎています。
(しかも何と、事を致してから15日後にプロポーズしたそうですよ)


お金持ちでも無いし、何か名前も変だし!

余談ですが、ジョゼフィーヌはナポレオンという呼び方を嫌い ずっとボナパルト呼びだったそうです。

困り果てて、愛人バラスに貴方と別れたくないと泣きついてみたりしますが、バラスはジョゼフィーヌを早く手放したかったので効果は無し。

結局ナポレオンに強引に押し切られる形で、2人は結婚することになったのでした。

ふたりの婚約が公にされたのは、1796年2月24日の事でした。

続きます。

新婚のナポレオンが、イタリアからジョゼフィーヌに宛てて書いたラブレターをご紹介します。


参考

ナポレオンとジョゼフィーヌ (中公文庫) 

encyclopedia
Wikipedia
NAPOLEON.org

Youtube: Lazy Egghead

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