AくんとBくん。その1
ある日の午後、AくんとBくんの会話を盗み聞きしました。
A「漫才せん?」
B「なんで?なに事?」
A「ええやん、漫才師目指そうや」
B「なんなん君、またなんか見たんか?」
A「年末やってたやん、漫才のテレビ」
B「やってたけどなんでなん?」
A「ええやん、誰かを楽しませて笑わせるってステキやん」
B「ボク嫌やで」
A「え、なにが?」
B「やらんからな」
A「漫才師の話?」
B「うん。そういうの向いてないし好きじゃないんや」
A「お前な、そういう所やぞ」
B「なにが」
A「例えばな、目の前で好きな人が泣いてる、そんな時にかける言葉はユーモアやろ」
B「時と場合によるやろ」
A「一応、進路希望“漫才師”にしてみたわ。」
B「自由すぎん?まぁ、好きにしたらええけど。たぶん明日の朝イチで呼び出しやな」
A「ならええわ、他のやつとコンビ組むから」
B「がんばれよ」
A「え?」
B「え?」
A「え、え、ちょっと待って」
B「なんや?」
A「目の前で話が消えかけてるのに、飛びつこうと思わんのか?」
B「興味ないもん、この話」
A「ほな、コンビ名考えよ、コンビ名」
B「なんでボクが考えなアカンねん」
A「コンビ名考えるだけ考えて。なんかポップなヤツ」
B「好きなファーストフードは」
A「フライドポテト」
B「なら“ポップコーンズ”やな。がんばれよ」
A「待って、そういう所やぞ」
B「なにが?考えたやん」
A「雑すぎん?」
B「そうか?」
A「雑やで」
B「ポップなのがいいんやろ?」
A「おう」
B「フライドポテト好きなんやろ?」
A「うん」
B「“ポップコーンズ”やん」
A「えええ〜、なんでなん?油モンやけども。待てや、ポップコーンは揚げ物ちゃうやんか。」
B「どっちも冷めても美味しいやん」
A「あったかいうちに食べるのが美味しいヤツやんか。どっちか言うたら。」
B「ボクはしなしなのフライドポテトも好きやけどな。」
A「好きズキやろけどさぁ。もっとカッコいいのがいい。もっとオシャレにして!」
B「自分で考えろや。“塩バターポップコーンズ”とか“キャラメルポップコーンズ”とかあるやろ」
A「なんで映画館っぽさ出すの、もっとこう、あるやん、素敵な感じっていうか響きっていうか」
B「“宇治抹茶ポップコーンズ”か」
A「侘び寂びはええねん、京都府民に謝れ」
B「もう好きにやってや〜相方と」
A「相方おらんからお前に頼んでるんやろ」
B「そこがおかしいことに気がつけよ、コンビ名って相方と考えるとか師匠に決めてもらうもんちゃうんか?」
A「その発想は無かったな」
B「逆に聞くけど、君の中で候補はあるんか?」
A「あるよ」
B「ちょっと言ってみ」
A「ロケットフライヤーズ」
B「揚げ物やん。めっちゃ早よ適正温度になる感じやん」
A「どうかな。」
B「胃もたれしそうやわ」
A「まぁ、俺にはユーモアっちゅうんが無理なんかもな。コンビ名すら考えられんのやから」
B「ゆるく考えたらええやん、漫才師でもピン芸人でも。」
A「ピン芸人って選択肢があったな」
B「…考えんからな、芸名。」
A「うーわお前エスパーか、一個でいいからちょっと出してみて」
B「一個でええんか?」
A「一個でいい」
B「ポッp…」
A「油物以外で!」
B「うj…」
A「侘び寂びもいらんから!ポップさメインで」
B「好きなスイーツは」
A「プリン」
B「ほな“ポップリン”やな、がんばれよー」
A「待てや、雑やってさっきから」
B「興味ないねん初めっから」
A「ええやん楽しもうぜ」
B「楽しくないねん根本的に」
A「これは抜本的な改善が必要やな」
B「そもそもアイスブレイクが必要やで」
A「例えるなら5月の陽だまりの中にある膝掛けのような視点が必要やな」
B「それはメタファーを感じるな」
A「祖母の膝掛けのようやな」
B「唐突にエモーショナルやな」
A「膝掛けとブランケットの違いってなんやろな」
B「知らんわ、どんだけ膝にこだわんねん。詩人になれよ。なんかそっちの方が向いてそうやわ。」
A「詩人か。考えたことも無かったな。エベレストを登るかのように。」
B「君、詩人向きやで」
A「進路希望“詩人”にしてみるわ」
B「もうええわ。」
A「ありがとうございました」