平和への願い・「夜と霧」と「ルート181」
若いころに「夜と霧」は霜山徳爾訳で読んで、正直、怖いというか可哀そうというか、でも読後は爽やかで、よかったと感動しました。
1956年に初版のこの本は、作者のヴイクトール・E・フランクルと親交のあった霜山徳爾氏の訳で日本では紹介されていました。
2002年、池田香代子氏の翻訳で新版が出たのは知っていましたが、読んでいませんでした。そして、今年の9月、友人たちの勧めで、10年ぶりに大阪で上映されるという映画「ルート181」を観ました。そのあと、手にとった新版「夜と霧」。そこには、作者の別の意味での平和への願いがありました。
☆「夜と霧」 ヴイクトール・E・フランクル著 池田香代子訳 みすず書房 1650円(税込み)
「夜と霧」は心理学者であり精神科医師である作者のフランクルの、第二次世界大戦中、ナチスドイツのユダヤ人収容者での過酷な体験が描かれています。新版には、ユダヤ人被収容者たち、といった言葉がでてきます。旧版にはなかった逸話が追加されていました。
池田香代子氏のあとがきによれば、1948年のイスラエル建国と同時に勃発した第一次中東戦争から30年足らずの間に4度も戦火にみまわれていたことが、フランクルの眼にどう映ったか。当時、17カ国に訳された「夜と霧」はアンネ・フランクの「日記」とともに作者たちとの思いとは別にひとり歩きし、イスラエル建国神話をイデオロギーないし心情の面から支えたという事情があり、それゆえに逸話挿入したのではないか、と。
新しい逸話は、ユダヤ人被収容者であった所長が、ポケットマネーからかなりの額をだし、収容者のために街の薬局から薬を購入し助けたことが描かれていました。戦争が終わってアメリカ人が来たとき、収容者であったユダヤ人たちは彼を庇ったことも。
池田香代子氏は、書いています。
一方、「ルート181」は、2002年夏、イスラエル人監督とパレスチナ人監督が「181号決議」に描かれた架空の境界線を辿る旅に出たドキュメンタリー映画です。(2005年山形国際ドキュメンタリー映画祭最優秀賞受賞作品)
第二次世界大戦後、国連によって、ユダヤ人の国イスラエルの建国を認めるパレスチナ分割決議が採択されました。「181」はこの国連決議の番号です。これによって、恣意的な分割線によって、イスラエルとパレスチナは分割されることになりました。直後、お互いが不満をいい、戦争が勃発。その結果、多くのアラブ人が土地を追われ、1948年、イスラエルが建国された事情があります。
「ルート181」で描かれた世界は、知らなかったことだったので、
そもそも1948年のイスラエル建国、国連決議すら知らなかったので、勉強になりました。(映画は、わたしにいろんな学びを教えてくれます。今年の大きな学びでした)
この映画は、今年、フランスでの上映回数が反ユダヤ的という理由で減らされました。戦争は双方の言い分があります。侵略、宗教など。
ただ、どんな大義名分があっても良い戦争は絶対になく、戦争は究極のところ無差別な殺人でしかないこと。数数の本や映画が、歴史を通して、教えてくれました。「夜と霧」の新版の逸話にふれたとき、両親や妻をガス室で失ったヴイクトール・E・フランクルの思いを思うと、当時の世界情勢を考えて書き足した逸話、池田香代子氏の訳、あとがきの素晴らしさもあって一層、深い感銘を受けました。
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