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小説 続ける女 完結。

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「小説 午前二時の女」の続編。 エリート官僚の餓死というショッキングな事件。 その事件に関わったある女性の物語。
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小説 続ける女〜session1

小説 続ける女〜session1

「ロイヤルミルクティーでございます。」

麹町の中津川邸の応接室に芳醇や紅茶の香りが流れた。

年始の慌ただしさが過ぎ、ようやくいつもの静けさが中津川邸に戻ってきた週末のことだった。

中津川家の執事のオバラは、ご自慢のロイヤルミルクティーを差し出しながら慎重に来客を盗み見る。

年齢は若いが、濃紺のブランドスーツをきちんと着こなし、短髪を奇麗に七三にわけ誠実そうな男性がひとり。

いかにも育ちの

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小説 続ける女〜session2

小説 続ける女〜session2

「古川さんから大体の話は聞いてるわ。岩村さん。」

オバラが渋々、応接室を去ったのを見て玲子は目の前の青年に言った。

「恐縮です。」

玲子に呼ばれた青年は頭を下げた。

「私のような一官僚の相談を古川先生のような大政治家が聞いてくださり、中津川さんをご紹介いただくなど身に余る光栄で・・。」

「おべんちゃらはその辺でいいわ。古川さんは官僚に恩を売るのが仕事だから。」

玲子は周りくどい挨拶をす

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小説 続ける女〜session3

小説 続ける女〜session3

「おおよそのことは聞いているけど、もう一度あなたの口から教えてくれる。」

玲子はロイヤルミルクティーの香りを楽しみ、そしてそっと口に運ぶ。
淡いピンクのルージュが艶かしく濡れる。

岩村と名乗る男はその玲子の美しさに一瞬心を奪われたが、気を取り直して居ずまいを正した。

「少し前に私の同僚の男が自宅で死んでいるのを発見されました。吉良義人という男です。財務省の官僚で大変優秀な男でした。」

「死

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小説 続ける女〜session4

小説 続ける女〜session4

「吉良の昔の彼女です・・・いや・・正確には吉良の昔の彼女の生霊です。」

岩村に声は心なしか震えている。
恐怖の記憶がまだ生々しく岩村には残っているらしい。

「生霊とはどういうこと?」

「吉良は言っていました。昔、捨てた彼女に恨まれていると。そして、その彼女から毎日、脅迫めいた手紙を送りつけられていると。私もその手紙を見ました。口紅でウラギリモノとかコロスとか、それは恐ろしいものでした。」

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小説 続ける女〜session5

小説 続ける女〜session5

「脅迫状?」

「そうです。吉良に宛てられた脅迫状がいまなお送り続けられいるのです。」岩村は唇が乾くのであろう。何度も紅茶で唇を湿らす。

「吉良の葬式が終わって、吉良の家族が私にその脅迫状を持ってきたのです。吉良の死後も毎日欠かさず脅迫状は送り続けられているのです。内容もその文字も・・私が吉良に見せてもらったものと同じものです。」

「それじゃ、すぐに警察に届ければいいじゃない。」

玲子は至極

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小説 続ける女〜session6

小説 続ける女〜session6

「でも、引き受けるわ。おもしろそうだから。」玲子はポンと手を打った。

至って軽い反応である。

玲子にとって怨霊とか呪いとかは恐怖ではない。

そもそも中津川家はそれで栄えてきた一族である。

岩村が感じる恐怖は玲子にとってはDNAに刻み込まれた「日常」といってもいい。

「ということで、もうひとつ質問してもいい?」

玲子は鮮やかに染められた金髪をかきあげて岩村を見る。

「吉良義人の昔の彼女

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小説 続ける女〜session7

小説 続ける女〜session7

冷え込みが厳しいこの冬にしては、珍しく寒気がおさまり、ポカポカ陽気とはいえないまでも、陽射しがある快晴の土曜日のこと。

週末になると天気が悪かったのだが、久しぶりの爽やかな週末であった。

中津川玲子と岩村さとしは、両国駅から首都高速沿い、蔵前橋の近く緑道公園にいた。

時刻は午前11時。

いい天気だが、川沿いはさすがに風が冷たい。

玲子は、黒のロングスカート、黒のロングブーツに黒のカシミア

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小説 続ける女〜session8

小説 続ける女〜session8

思い起こせば吉良義人という男は不思議な男だった。

頭脳は明晰、語学堪能で、普段はおとなしいがここ一番となると鋭い舌鋒で相手を圧倒する。

かと思えば、よく気配りもきき、決して自分が目立とうとするタイプでもなかった。

財務省という特殊な世界の中では、吉良のもつ頭脳や弁舌は大いに期待された。

いや。

利用された。

それは本人の望むところではなかったのではないだろうか・・。

吉良の異例の昇進

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小説 続ける女〜session9

小説 続ける女〜session9

ベビーカーと玲子達との距離が縮まってきた。

子供というものは常に好奇心が旺盛だ。

双子は、ベンチに座っている見慣れぬ者に気づいたらしい。

可愛らしい嬌声をあげて玲子に笑顔を振りまく。

「こう見えてもアタシは子供には人気があるのよ。」

玲子は岩村を振り返りウインクをした。

その仕草に岩村は思わず心を奪われ固まった。子供だけではない、充分、大人も虜ですよ・・と思わず言葉が出そうになったが呑

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小説 続ける女〜session10

小説 続ける女〜session10

「確かに彼女が脅迫状を送るような人間だとは思えないわね。」

玲子と岩村は両国の駅前のカフェに入っていた。

年明けの早い時間ということもあって、人はまばらであった。

玲子は、一杯立てのエスプレッソに加糖練乳を加えたベトナム珈琲を口にする。

一方の岩村はアメリカンをブラックで飲んでいた。

「そうなんです。」

岩村が頷いた。

「私も、あの人に脅迫状のような恐ろしいものを書くような人にはとて

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小説 続ける女〜session11

小説 続ける女〜session11

江戸中期。鳥取藩にひとりの浪人が現れた。

浪人は滅法、剣の腕が立ち、鳥取藩に士官を望んでいた。

浪人は温和な性格で、ふた月ほど城下で暮らすうち、数人の若い藩士と懇意になった。

その若い藩士はいずれも藩の重役の息子で、彼らのとりなしにより浪人は鳥取藩に召し抱えられることになった。

浪人は大層喜び、若い藩士との仲はますます深まった。

しかし。

少しだけこの浪人、いや今や藩に召し抱えられるこ

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小説 続ける女〜session12

小説 続ける女〜session12

「よく似た話じゃないですか。」玲子が物語ったはなしに岩村は身を乗り出した。

「子供の人数まで合ってる。」

玲子は珈琲カップを両手で包み込むようにして持ちながら、口に運ぶ。

「歴史は繰り返すというけれど、昔の故事の中には現代で考えれば不思議なことの答えが既にあるの。私たち陰陽師はそういった人間の根本的な繰り返しの事実を精査してものごとの本質を見極めるのが仕事なのよ。」

岩村は玲子の言葉にわか

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小説 続ける女〜session13

小説 続ける女〜session13

寒い朝だった。いつも通り大石莉子は双子の子供をベビーカーに乗せて散歩に出る。

東京に出てきてからの日課になった行動だ。

夫は、最初のうちこそ心配して一緒に付いてくるような素振りを見せていたが、そのうち寝床の中で軽く手を振るだけになっていた。

結婚して4年。

夫は都市銀行の銀行マンで、莉子より5歳年上のおとなしい真面目な男である。

莉子が夫の勤める北海道の支店の契約社員だった頃に知り合った

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小説 続ける女〜session14

小説 続ける女〜session14

夫の転勤で、吉良の住む東京に移り住み、偶然、駅前で吉良と再会したことで、すべては変わった。

いや。

続いていた。

そういうべきなのだろうか。

いつものようにいくつかの路地を曲がり、大通りに出る。

この時間帯は出勤時間の少し前であり、人通りはまだ少ない。

風がときおり強く吹き、莉子の髪を揺らす。
ベビーカーの中では二人の「ヨシト」が天使のような表情で眠っている。

莉子は足を止めた、

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