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小説 続ける女〜session6


「でも、引き受けるわ。おもしろそうだから。」

玲子はポンと手を打った。

至って軽い反応である。



玲子にとって怨霊とか呪いとかは恐怖ではない。


そもそも中津川家はそれで栄えてきた一族である。


岩村が感じる恐怖は玲子にとってはDNAに刻み込まれた「日常」といってもいい。




「ということで、もうひとつ質問してもいい?」


玲子は鮮やかに染められた金髪をかきあげて岩村を見る。




「吉良義人の昔の彼女っていうのは東京にいるのね。そう古川さんから聞いてるんだけど。」




「はい。警察の方の調査でわかっています。」


岩村は慎重に言葉を選ぶように返答した。その微妙なニュアンスを玲子は敏感に感じた。



玲子はくすりと笑って、岩村を見る。



岩村はその玲子に視線に居心地悪そうに長身の身体をすくめる。




「あなた、その女に会ったのね・・。」



「い、いや・・会ったのではなく・・。」



「盗み見た。」




「・・・はい。」



玲子は溜息をついた。



「警察もそんな大事なことを貴方に漏らすなんて・・。まぁ、いいわ。貴方がさっき生霊と表現したのは、その女がとても脅迫状を出すような人間に思えなかったということね。」




「その通りです。お子さんもふたりいて、本当に幸せそうだったんです。とても昔の恋人に脅迫状を送りつけるようには思えませんでした。それだけに不思議で・・。」




玲子は岩村の言葉に耳を傾けながら、応接室からつながる広大な中津川家の庭に目をやった。



風が強くなってきたようで、庭の木々が揺れている。




暖かい屋内にはその風の冷たさは伝わってこないが、雲に覆われた太陽の鈍い光がひんやりとした空気を想像させる。





「・・・丑三つ刻の女・・。」



玲子は小さく呟いた。




「え・・?なんと仰いました?」


声が聴き取れなかったらしく、岩村が聞き返した。



玲子は首を振ってその問いには答えず、



「まずは、その昔の恋人やらに会いましょう。全てはそこからだわ。」






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