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小説 続ける女〜session7


冷え込みが厳しいこの冬にしては、珍しく寒気がおさまり、ポカポカ陽気とはいえないまでも、陽射しがある快晴の土曜日のこと。



週末になると天気が悪かったのだが、久しぶりの爽やかな週末であった。



中津川玲子と岩村さとしは、両国駅から首都高速沿い、蔵前橋の近く緑道公園にいた。




時刻は午前11時。



いい天気だが、川沿いはさすがに風が冷たい。



玲子は、黒のロングスカート、黒のロングブーツに黒のカシミアコート、そして頭には黒のロシア帽を被っている。



まるで。。



「メーテルみたいって言いたいんでしょ。」


玲子は笑った。



「その通りよ。アタシ、最近銀河鉄道999にはまってるの。」



それでなくても、人目を魅く美貌の持ち主だ。

それがこの格好とくれば、すれ違う人は必ず振り返る。

目立つなどというものではない。




「目立ち・・過ぎはしませんか・・。」

岩村はおそるおそる言った。



この公園に子供と散歩にくる女———吉良義人の昔の恋人ーーー大石莉子をここで待ち受けようとしているのだが、この玲子のいでたちでは、すぐに相手にバレて警戒されてしまうのではあるまいか。



「それが何か悪い?」


「いや・・相手に警戒されないかと・・。」


「馬鹿ね。」

玲子は鼻で笑った。



「警戒されるもなにも、アタシは最初から、こっそり盗み見るなんて格好悪い真似する気はないわ。」


「・・どうされるつもりなのですか・・?」


「自然体よ。」


「自然体?」


「話しかけるタイミングがあれば話しかけるし、そうじゃなきゃ、普通に様子を見てるわ。」


玲子はそういって、ベンチに腰かけ、長い足を組む。



玲子は座ると、普通の公園が映画の1シーンのようになる。


「華」という言葉が玲子にはぴったりである。



「あなたも座ったら。」

玲子に促されて岩村もベンチに腰をかける。




川から吹き付けてくる風は冷たいが、その冷気の中にほんのり太陽の暖かい匂いを感じるのは気のせいだろうか。



岩村はふと、生前、吉良が北海道の冬の風は「暖かい匂いがする」と言っていたのを思い出した。


普段、寡黙で仕事以外のことは滅多に口しない吉良が妙に抽象的な話をしたので、記憶にとどめていた。





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