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失くした現実

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もうすぐ見えると思いますよ、太陽が東に沈んだら。4話完結。
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失くした現実

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ー1ー

現実感がないな。
そう呟いた僕のほうをツグミは怪訝そうに振り向いて、
「何?」
と聞き返した。僕は、いや、なんかね、と言ってから手元のコーヒーカップを確かめるように持って、
「何て言うか、最近妙でね。」
と神妙な表情をした彼女に言った。いつもと変わらないコーヒーの味。窓の外の風景。秋空は高く澄み渡り、季節の移り変わりを優しく知らせてくれていた。
「妙って?何が?」
ツグミはまた鏡に向き直

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失くした現実

—2—

思い出は、霞んでいく部分とやけに印象が深く残る部分に別れていく。霞んでしまった部分を思い出そうとしても、ぼんやりとした雰囲気と色合いだけが頭に浮かぶだけで、はっきりとした光景や言葉たちは残ってくれない。それとは反対に、深く残る部分は、そのときの風景や感触や表情が妙に記憶の中に縁取られている。それがモノクロのものだろうと、彩色されたものだろうと、それはさほど重要ではない。
僕の記憶は、何処

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失くした現実

—3—

記憶がないということ自体に何ら問題もないならば、無理に思い出そうとする必要はないし、思い出に固執する必要もない。今まで自分にかかってきた記憶を失った患者に対して、僕はいつもそう診断してきた。人間は自分が残してきた足跡が見当たらないと不安になる。今まで自分がどんな風に、どんな道を歩いて来たのかが目に映らないということは、何も過去に確かなものがないということだからだ。
それでも、現実がうまく

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—4—

朝、僕はいつもどおりに仕事に向かった。冬の朝は冷たく、空気が肌を刺す様に冷え切っていた。駅についた僕は改札を抜けてホームで電車を待っていた。空は灰色だった。今にも雪でも降ってきそうだな、と思っていた。電車の着く時間に近づくと、ホームには電車に乗ろうとする人間で混み合いながら列が出来た。人混みに揉まれながら待っているとき、僕の視界にふと、見覚えのあるシルエットが横切った。僕はその影を視線で

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