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誰も置いてけぼりにしない物語/高松美咲『スキップとローファー』より

 高松美咲先生の『スキップとローファー』の話じゃ~!!!!(ドコドコドコドコ)

 お恥ずかしながら2月辺りから更新を追えていなかった。理由は色々あるけれど、ようやく読める元気が戻ってきたので読みました。いや~やっぱりめちゃくちゃ良いなこの作品。

 これまでにも何回か紹介しているので、今日はそれ以外のところに触れます。

 今回は「沈黙」と「人間関係の描き方」に絞って紹介する。語りたいことがありすぎて終わらないので。

 まずは沈黙。スキップとローファーでは、度々セリフが無く登場人物の表情やたたずまいのみが描かれる。
 例えば59話【ギラギラの進路⑵】。この話では、親との確執と親に決められた進路に悩む生徒とシングルマザーとして生きることを決めた教師の二人を中心にして描かれる。
 マガポケ59話⑵【ギラギラの進路⑵】は、その生徒と教師の対話から始まる。生徒は「もっと要領よくこなすタイプだと思った」と教師に言い、それに対して教師は「自分自身もそうだと思っていた」と返す。そして、以下のように付け加える。

「でもね そうじゃないって気づいちゃったの だからやるしかないの」

高松美咲『スキップとローファー』マガポケ59話⑵【ギラギラの進路⑵】p.3 p.4

 お腹の子をそっと撫で、階段の途中で前を向く教師のカット。構図の美しさもそうだが、理想の自分を手放して現実を受け入れる強さが描かれている良いシーンだ。

 ここからが沈黙の場面になる。階段を上っていく教師と驚いたようにその背を見上げる生徒。生徒はその後赤本片手に自習をするが、急に本を閉じて図書室へ。そこで全く別の大学の赤本を手に取り、開く。この間4ページ、全くセリフが無い。それどころか、最後のページに関しては、生徒の表情も描かれていない。図書室で棚と向かい合って立ち、本を開いている構図だが顔の部分はのっぺらぼうになっている。凄く静かな1ページだ。

 情報が限り無く排されている4ページだが、それでも何が行われているかは伝わってくる。逆に、表情やセリフの欠落が余白となって読者が解釈できる余地となる。(ここで余地は、幅が広がるではなく、頁の意味を考えたくなるという意味で用いている。)

 と、ここまでは読者も絡めた効果について触れた。しかし、他にもあえて沈黙にする意味はあると思う。先に紹介したのは登場人物が進路を変える決意をする場面だ。これまで親に強いられ、自分も受け入れてきたレールから踏み出す決意。その決意の瞬間を沈黙で描くことで、登場人物の内で芽生えた決意の熱さが引き立つように思う。引き算の美学というべきか、自分の中の大きな何かが変わる瞬間は意外と静かだったなと気づかされる。

 次は「人間関係の描き方」。
 これは最近の青春日常系漫画(阿賀沢紅茶『正反対な君と僕』や原作:クワハリ/漫画:出内テツオ『ふつうの軽音部』)にも言えることだが、色んな人にスポットライトがあたる。スキップとローファーはそれが顕著だ。

 この言い方も正確では無いかもしれない。スキップとローファーはAとBの会話からAを掘り下げるだけではなく、AとB、AとC、AとD……etcというように一人ひとりの様々な側面を掘り下げている。先の生徒と教師のように、関わると思っていなかった人同士が関わることも多いので驚かされる。
 読んでいて、確かに全く関わりの無かった人が自分に対して大きな影響を与えてくれることってあるよなと思う。
 
 田舎から上京して奮闘する主人公をはじめ、本作品には様々な人が登場する。
 他人軸で行動する内に自分を見失う、恋愛のいざこざに巻き込まれがち、眉目秀麗で要領は良いが親との確執がある、所謂陽キャへの抵抗感や高いプライドを持つ自分を中々変えられない、素直にもとびきり綺麗にもなれない自分に悩んでいる、誰からも特別扱いされない……などなど。

 それぞれに悩みがあり、偏見があり、プライドがある。だからぶつかったることも支え合えることもある。スキップとローファーは人と人との関わりを中心に描くので、自然と衝突というかモヤモヤが題材になる。それでも読んでいる側に不快感が無いのは、後味が悪い形では終わらないし大団円!!で終わらないからだ。

 ぶつかった人同士の意見が急に変わることは無いし、変わらずに終わる話もある。ただ、それぞれが自分の心の中に、自分とは違う意見の人がいるという認識の居場所を創っている気がする。意見は変わらないけど、態度が変わるのだ。だから「ここでは解決しないけど、後の話でまた掘り下げがあるんだろうな」と納得する。これがリアルだ。

 現実は後味悪く終わる場合もある。それでも、自分と違う意見の人を受け入れる居場所をつくるだけで終わり方は違うのかな、と思わされる。

 色んな人にスポットライトがあたる良さは、誰かを特別扱いすることが無い所だと思っている。スキップとローファーはそれぞれの好き・嫌いを否定しない。特に主人公のみつみさんは、他の人の在り方を常に尊重している。特別扱いされる居心地の悪さも、そもそも物語で扱われない置いてけぼり感もない。だから、読んでいて「自分の居場所もあるかもしれない」と思える。

 現実はそうでない場合もある。だからこそ、スキップとローファーはあまりにも眩しくて読めなくなる時もある。でも、読むと心が温まる優しさがある。そんな『スキップとローファー』が私は好きなんだ。

 読んで!!!!!!!!!読んで!!!!!!!読んで!!!!!!! 







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