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忙しいを理由にするのはやめような
コロナ禍になるまでの、学生時代の友人たちとのお集まりを思い出した。
企画立案に凄腕の人がいて、毎回、飽きさせない。
おもしろそうなカフェに集合したり、
祇園の町家を借りて午後のひと時を過ごしたり、
レンコン掘りにも行った。
貸家を一泊だけレンタルして、一泊旅行に行ったりもした。
なるべくたくさんの人が集まれるように、時間のはばをゆるく設定して、出入り自由にしてくれているところなんて、その凄腕ぶりが表れているよね。
おかげで、少々遠い場所からでも、駆けつけてくれる人がいたり、途中からの参加者も気兼ねなくこれたりして、たくさんの人の近況を顔を見ながら知ることができていた。
なかでも、面白かったのは、レンコン掘りである。
レンコンなんて、だれ一人として、掘ったことはないのに、なんだか面白そうだと、凄腕さんが見つけてきてくれた。
そもそも、レンコンとは、どうやって掘るのかを誰も知らない。
なんとなく、どろんこになりそうなイメージ。
とりあえず、全身を覆えるようなレインコートを用意する。
とはいえ、わざわざ買うのもなんなんで、100円ショップで用意する。
あっ、ビニール手袋も用意したわ。
泥の中に手をつっこめるように、100円ショップで数百円の課金をして、長めのいいやつを買った。
長靴は貸してもらえるらしい。
と、準備不十分なままではあるが、お天気も味方をしてくれ、いざレンコン掘り当日。
滋賀県でバウムクーヘンで有名なしゃれたお店があるが、
そのまん前にあるレンコン畑に集結。
レンコン掘りって、もっとしゃばしゃばの水の中を攻めていくのかと思いきや、重たい泥の中を掘っていく力仕事だった。
しかも、レンコンが折れないように、細心の注意が必要。
優しく、力強く、根気よく。
ただ、ひたすらにこの三つの作業だった。
案の定、私は、すぐにボキボキと途中で折ってしまう。
優しくないのだ。
根気もないのだ。
力は、強すぎるのか。
泥の中では、一歩足を進めるのも重労働。
腰をかがめて、レンコンを掘り進めるのもきつい。
いつしか、安物のレインコートのズボンはずりさがっていく。
汗だが、泥だか、もうなにものかわからない感触を、顔に感じる。
泥だらけの手では、ぬぐうこともできない。
そうこうするうちに、泥が目に入り、痛いのなんのって。
しかたなく、泥畑を脱出して、畑の持ち主さんのおうちで水道を借り、手と目を洗わせてもらう。
その時、畑の持ち主さんの可愛いお姉さんが、おずおずと、でも、見開いた目で私をしっかりと見つめながら、話しかけてきた。
「あの~~~。いったい、どういう集まりなんでしょうか・・・。」
きっと、聞きたくてたまらなかったんやろうなあ。
このおばさんたちは、いったい何者なのか?
レンコン掘りに慣れてる感じもないし、アクティブな感じもしないし、そのくせ、けっこうやる気でがんばってるし。
なかには、目を洗うことを口実に、こうやってさぼっている人もいるけど。
でも、総じてまじめに掘り続けてるし。
いったい、何者?
答えは聞き逃さへんで!
と、そんな目をしていたお姉さん。
「あっ、学生時代の友人仲間で。まっ、同窓会みたいなもんかなあ。」
「・・・・・同窓会・・・・・。」
しばし沈黙。
「い、いいですね。いつまでも、こうやって一緒に楽しめるって。でも、同窓会で、レンコン掘りに来られた方は初めてです。」
この妙齢のおばさんの集まりは、同窓会やったんか。
ふつう、これくらいの人たちの同窓会って、おしゃれをして美味しいものを食べに行くんやと思ってたわ。
レンコン掘りってのもありなんやな。
へ~~~~。
そんな目をしてた。
でも、若いお姉さんが、れんこん畑の持ち主ってのに、こっちもちょっと驚いたんやで。
結局、そのままさぼっていた私とはちがって、最後までレンコン掘りを頑張っていたのは、体育会系の人ではなく、どちらかというとインドア派の人だった。
もくもくと、静かに、泥の中をさぐり、慎重に掘り進めていく。
その作業を、ひたすらに続けていく根気。
それが、勝因だったようだ。
力よりも、根気か。
作業を終え、泥だらけになったレインコートを脱いだものの、洋服のあちこちに泥がついていたり、ずり落ちたズボンから泥が浸みて、結局ズボンをはき替えたりと、それぞれに帰り支度は大騒ぎ。
下着の替えまでは持ってきていなかったのに、あまりの泥の浸みように、しかたなく、ズボンだけをはきかえ、その下はノー下着で帰る人もいたり。
こんなにも、セクシーさに欠けるノー下着ってあるんや・・・。
と、こんな集まりが何回かあった。
なんの決まりもない集まりだが、集まりを初めて企画してくれた時に、凄腕の人が、
「忙しいを理由にするのはやめような。」
と、さらっと付け加えてくれた。
ほんまやな。
「忙しいから行けない。」
ではなく、
「どうやったら、行けるのか。」
を考える仲間でありたい。
私たちには、もう二度と会えなくなった仲間がいる。
いつでも会えるって、誰もが思ってた。
そう信じてた。
でも、会えなくなってしまった。
もう、あんな思いは嫌やな。
そう思った。
そう思ったはずなのに、時間の経過とともに、少しずつ思いが薄れていくことがある。
そんな時に、凄腕の人の言葉を思い出す。