琵琶湖で魚がはねる 「ぶおちゃっ」
片道45分かけて、琵琶湖岸まで歩く。
目指すは、新唐崎公園。
公園と言っても、何やら立派な松の木があるくらいで、あとは石のベンチがいくつかあり、のっぺりと砂浜がひろがっているだけのところ。
なんにもないところやけど、そこにはいつも誰かいる。
その時々で、異なるけれど、いつも誰かしらを見かける。
貝拾いをしている子どもの時もあれば、
湖に腰までつかった釣り人がいることもある。
犬といっしょに散歩をする人もいれば、
小さい子どもとお父さんが、父子のきずなを深めている時もある。
ほかには、
湖面に浮かぶ藻を採る人や、
ちょっと派手な中学生女子だったり、
けっこう地味めな高校生男子だったり。
中学生や、高校生が、浜に並んで座っている後ろ姿は、なんだか懐かしい。
どんな話をしているんだろう。
そんな風に、様々な人をみかけはするが、みんなして共通しているのは、
とにかく静かなことである。
ぼそぼそとした話し声はあるものの、みんなして、口数は少なめ、声小さめ。
何か、ルールがあるのかと思うくらいに、音声控えめなんである。
目の前にひろがる大きな湖面がそうさせるのか。
あまり人の手が加えられていない、自然な感じがそうさせるのか。
石のベンチに腰掛けると、その座り心地と、静かさと、琵琶湖の景色に、立ち上がることを忘れてしまう。
あ~。静かやなあ。
切れ切れに聞こえる人の声と、小さな波の音は、α波のようにリラックスさせてくれる。
。
そんな時に、突然、
「ぶおちゃっ」
と、大きな音がする。
びっくりするくらい大きな魚がはねたのだ。
たぶん魚。
全貌は見えないが、何やら大きな黒い塊が湖面から、跳びあがるのを見た。
あれは何や?
湖の主?
でも、驚いたのは私だけ。
他の人たちは、微動だにしない。
顔をあげることもしない。
みなさんは湖の主によく出会っているのか。
「ぶおちゃっ」の後は、また「し~ん」と静かになる。
とまどう私をよそに、みなさん、貝拾いや犬の散歩を続けておられる。
気になる「ぶおちゃっ」。
ブラックバスにしたら大きすぎるんとちゃうやろか。
みなさん、気にならへんのかなあ。
藻を採る作業の人も、まったく普通に、さっきと変わらず作業を続けておられる。
季節によっては、湖面には藻がたくさん浮かぶ。
それを、熊手のようなもので集めて、袋に詰めていく。
こういうお仕事があるんやなあ。
知らんかったなあ。
知らんことばっかりやなあ。
「ぶおちゃっ」
あっ、さっきとは少し離れた場所で、また、黒い大きな塊が跳びはねた。
出た!
見た!
せやけど、何かわからんかった。
思わず、あたりをキョロキョロするが、やっぱり誰も全く反応していない。
気になる~。
気になる~。
あれは、いったい何?
そんなこんなで、「ぶおちゃっ」と出会うために、散歩に、無理して片道45分コースを選びたくなる。
気になるわ。
せやけど、もっと気になるのは、「ぶおちゃっ」の後の「し~ん」。
まるで何もなかったかのような。
えっ?
今、なんかあった?
えっ?
私、まずいことした?
えっ?
私、病気やった?
いやいや、何もなかったで~~~。
忘れたくなるような失敗や、嫌なことがあった時にも、こんな風に何もなかったようになれたらいいのになあ。
名付けて、琵琶湖「ぶおちゃっ」「し~ん」の法則。
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