ジャム丼と芋けんぴサラダ
もうすぐギフの命日がやってくる。
10回目の命日。
京都の丹後の生家に帰っていた時に、電話をしたまま倒れたギフ。
電話の相手が、素早く動いてくれたに、そのまま帰らぬ人となってしまった。
倒れたのが一人でいる時だったので、私たちが駆けつけるまで、ギフの身体は、警察署で預かられることとなった。
私たちは、できるだけ早く駆けつけようと、バタバタそれぞれに動くが、なんだか、なかなか用意がすすまない。
今から思うと、それぞれが焦っていたんだと思う。
夫の運転で、ギボと娘と私が乗り込んだ車は、夜遅くに滋賀の地を出発。
途中、丹後の警察署と連絡を取り合う。
運転中の夫の代わりに、私が電話の応対をするが、まずは、私とギフとの関係や、本当に私が本人であるかどうかの確認をされる。
いろいろと質問される内容が、なんだか、取り調べみたいに執拗で驚いた。
そうじゃなくても、平常心ではないのに、追い打ちをかけられるみたいで、苦しくなってくる。
私の電話のやり取りを聞いていた運転中の夫も、イラつき始める。
おかげで、高速道路で道を間違い、随分と遠回りをすることになってしまった。
でも、いろいろと確認をして、私たちがまちがいなくギフの身内であることがわかると、途端に、優しい口調となるおまわりさん。
「こちらは、雪が降っています。
焦るお気持ちは、わかりますが、どうぞ落ち着いて、安全運転でお越しください。」
その一言で、急に力が抜ける。
ありがとうございます。
あれから、もう10年か。
ギフのことを思い出す時は、食べ物がらみのことが多い。
京都駅から、湖西の田舎町に帰ってくるときには、いつも、なぜかあんぱんと牛乳を買い込んでいた。
JRのローカル線の中で、食べていたらしい。
必ずいつもあんぱんと牛乳。
たまに、食べそびれた時に、そのあんパンと牛乳をセットで持って帰ってくる。
カバンの中から、それらを取り出すギフを見て、「太陽にほえろ」みたいやなあと思っていた。
別に、ギフは刑事ではない。
だから、張り込みをするわけでもない。
だけど、あんパンと牛乳が、えらく似合っていた。
別の思い出として、私と娘が、ちょっとした発表会に出るた時のことがある。
まったく興味がなさそうなギフだったが、当日、私たちの出番の途中で、会場の扉を開けて、さっそうと入ってきた。
ステージ上の私たちは、すぐにギフがやってきたことに気が付いた。
だって、そんな場所に、でっかいソフトクリームを食べながらはいってくるんやもん。
しかも、それは、雪のちらつく冬の日のことやった。
また、別のある時、美味しいブルーベリージャムを、ギフにプレゼントしたことがあった。
ギボと一緒に、美味しいレストランに行ったので、一緒に行けなかったギフに、ちょっとお高めのブルーベリージャムをお土産にしたのだ。
そこのお店の一番の人気商品である。
私は、そのジャムの美味しさを、ギフに力説した。
さりげなく、市販のもののほぼ倍近くの値段であることも、アピールした。
夕食を食べていたギフは、黙って私の話を聞いていたが、おもむろに、ジャムの瓶を手に取り、白ご飯の上に、そのブルーベリージャムをかけ出した。
あまりに驚いた私は、何も言えず。
そばで見ていた息子である夫が、
「なにしてんねん。せっかくのジャムやのに。ご飯やなくて、パンにのせるもんやろ。」
と、あきれながら抗議していた。
すると、ギフは、表情一つ変えずに、
「ご飯も炭水化物。パンも炭水化物。一緒やろ。だからええねん。」
と睨むようにして言った。
そうか。そうなんか。炭水化物つながりやったら、いいのんか。
味の想像がつかない私は、なんとか、思い切って、
「美味しいですか?」
と聞くのが精いっぱいやったけど。
ギフは、これまた表情を変えずに
「美味しいよ。」
と答えていた。
ほんまやったんやろか。
ギフとの食べ物の思い出は、他にも「ライスカレー」や「うなぎを隠れてたべているのではないか疑惑」など、ネタはまだまだつきない。
ギボもまた、ギフに負けずおとらず、食べ物ネタの思い出は多い。
今はもう、ギフボともに、天国に行ってしまったが、まだ、一緒にご飯を食べていた頃に、わたしが作るサラダには、よくポテトチップスを入れていた。
ドレッシング代わりに、ポテトチップスを細かく砕いて、混ぜ込んでいたのだ。
今から思うと、なんてハイカロリー。
なんて、塩分過多。
しかも、混ぜ込むだけでなく、混ぜ込む前に、当然、何枚も(すみません。嘘です。10枚以上はいっとった。)つまみぐいをするわけで、摂取カロリーを思うと、おそろしい。
今は、とてもそんなサラダは、食べられない。
でも、当時は、ギフボも夫も娘も、そのサラダが大好きだった。
特に、ギボは、
「おもしろいなあ、これ。」
と言いながら、わしわしと食べていた。
ある日のこと。
帰宅すると、その日は、ギボがサラダを作ってくれていた。
ギボは、野菜を混ぜるのではなく、別々に並べて盛り付けをする派なのに、今回は、珍しく、いろいろと混ぜ込んである。
へ~。珍しいなあ。
と思いながら、取り皿にサラダをとる。
いろいろな具材が入っている中に、飴色の得体のしれないものが見える。
なんやろう。
なんかの実かなあ。
見ても、よくわからない。
レタスと一緒に、飴色の物体も、口に放り込む。
ガリッ。
バリッ。
あまっ。
なんやろう。これ。
わたしがそう心の中で思っていると、娘は、それを声に出して言っていた。
「おばあちゃん、この茶色いのんなに?
なんか、めっちゃ甘いねんけど。」
すると、ギボは、表情一つかえずに、
「あ~。それか。
芋けんぴをいれてん。
あんたのお母さんも、サラダに、ポテトチップス入れはるやろ。
あれをマネしてみてん。
ジャガイモも、サツマイモも、イモにはちがいないからな。
一緒や。一緒。」
ここで、また、息子である夫が、たまりかねて言う。
「一緒ちゃうって。甘いやん。甘すぎやん。」
そんな息子を一瞥してから、ギボは、
「ええやんか。あんた、甘いもん好きやろ。
チョコレートも、よう食べてるやろ。ちょうどええやないか。」
と、涼しい顔でいってのけていた。
でも、私は見た。
ギボのお皿に残ったサラダを、ギボがこっそり捨てているのを。
ギフとも、ギボとも、いろいろあったし、楽しいことばかりではかったけど、こうして、命日が近づいてきた時に、面白い食べ物ネタが思い出されるのは、悪くないもんやなあ。
もし、私がいなくなった時に、誰かの心に思い出を残すなら、感動モノより、おもろ話のほうがいいわ。
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